(出所) 日本銀行・金融庁・預金保険機構(2022)「巨大金融機関の破綻処理制度改革の軌跡」より抜粋図表1 我が国における破綻処理スキーム(金融危機対応措置:銀行等が対象)名称第1号措置第2号措置第3号措置(金融機関の秩序ある処理: 銀行、銀行持株会社、証券会社、保険会社、 特定第1号措置過小資本時特定第2号措置債務超過または支払停止時 (これらのおそれを含む)資本の状況過小資本時破綻または債務超過時破綻かつ債務超過時金融持株会社等が対象)概要資本増強資金援助一時国有化資本増強・流動性供給資金援助*1) 本稿の作成にあたって、川名志郎氏、吉良宣哉氏、匿名の有識者等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1 28 ファイナンス 2023 Jul.1.はじめに本稿では、「我が国におけるTLAC規制」(服部、2023c)を前提に、我が国のTLAC(Total Loss-Absorbing Capacity, 総損失吸収力)規制の詳細を説明することを目的としています。まず、我が国におけるTLAC規制の概要を改めて確認します。その後、破綻処理時におけるTLACの取り扱いや預金保険機構の役割について説明します。2.我が国における4SIBsの破綻処理戦略2.1 TLAC規制と特定第二号措置の関係読者に注意を促したい点は、TLACを用いた破綻処理はこれまで事例がないことから、TLACによる損失吸収の枠組みについては、既存資料を参照しつつ筆者が解釈した部分も存在する点です。現在、TLAC規制の対象となっている日本の3メガバンクおよび野村ホールディングス(4金融機関グループを総称して「4SIBs」)の破綻がありえるかについては議論があるでしょうが、実際の破綻処理の運用にあたっては、今後、議論を深める必要がある点が少なくないと思っています。また、これまでの論文で指摘したとおり、我が国では一定の条件があるものの、金融機関に対して公的資金注入のスキームが残されている点にも注意してください。本稿では、筆者がこれまで説明してきたバーゼル規制に関する一連の文献を前提にしています。筆者が記載してきた金融規制の入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。服部(2023c)で説明したとおり、2008年の世界金融危機以降、「Too big to fail(TBTF)、大きすぎて潰せない」問題に対処するため、グローバルで展開する金融機関が仮に破綻したとしても、納税者への負担を回避しつつ、金融システムへの連鎖も防ぎながら破綻処理ができる制度の確立が求められました。我が国では、世界金融危機後に、預金保険法の改正により、「秩序ある処理」が整備され、「特定第一号措置」と「特定第二号措置」が確立しました。その詳細は服部(2023b)に譲りますが、巨大な金融機関が実際に破綻処理をすることを想定したスキームは特定第二号措置です。秩序ある処理は、金融危機対応措置(預金保険法102条スキーム)との比較でいうと、銀行持株会社等、預金取扱機関以外への対応や資本増強だけでなく、流動性供給等のツールも有する点が特徴です。また、秩序ある処理では、市場型危機に伴って金融機関の急激な信用不安が生じることを想定しており、必ずしも債務超過に陥っていなくとも、早期の処理開始が可能な枠組みが整備されました(図表1が我が国における破綻処理スキームを整理したものですが、特定第二号措置は「債務超過または支払い停止時(これらのおそれを含む)」としています)。我が国におけるTLAC規制―我が国4SIBsに対する破綻処理スキーム―
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