ファイナンス 2023 Jul. 21途上国の公的債務データの透明性と正確性の向上に向けた取組み今後の取組み今回の発見はあくまで初期段階で判明した結果に過ぎない。今後、データギャップが見つかった個別の契約について、世銀が、途上国及び債権国に個別にコンタクトし、その要因がどこにあるのか精査する。この第二段階の作業を通して、上記の額は変動する可能性がある。したがって、この取組みはまだ始まったばかりである。今回の取組みを振り返って今回の取組みを通して、政策課題の実現には、諦めず努力することが重要であることを再認識した。2~3年前、国際場裏で、「債務データ突合」を訴えていたのは日本だけだった。国内でも、「根回しが足りていない」、「日本の主張がずれているから支持されない」、「そもそも僅かなデータギャップを見つける意味はないのではないか?」等々、散々な言われ方もされた。しかし、今や「債務データ突合」は、債務透明性に必要な取組みとしてグローバルに認知されるに至った。目指すゴールが正しければ、時間はかかるが、必ず形になる。日本は、今後、G20等の場で、この取組みに未参加の国や債務透明性に後ろ向きの国に対して、貸付データの共有とデータ突合を通して正確な債務データを確保することの重要性を訴えていく。その際、今回のパリクラブによる取組みを通して得られた具体的な結果が足掛かりとなるだろう。債権国にとっても、データギャップの存在を認識することで、この取組みが債権国自身のメリットとなることを理解するはずである。一部のパリクラブ債権国だけでなく、G20の主要債権国を含む、より幅広い取組みへと発展させることがゴールである。この取組みは、まだ第一フェーズを越えたに過ぎず、継続的に取り組む必要がある。それにあたっては、手間はかかるが、事前に関係者に説明し、相手の問題意識をよく聴き、質問や懸念に真摯に答え、誤解を解消する等の根回しがが必須である。3年前に、世銀がG20で失敗したように、いきなり提案を議場に持ち込んで、支持・不支持の評決に委ねるのは、勿体ない。また、政策課題を自身のイメージに最も近い形で実現するには、誰かに丸投げせず、自分自身が案を提示・デザインする側に回り、自分の考えを自分の言葉で伝え、関係者の意見を案に反映しつつ、譲れない一線は理由をつけて押し通しながら、主体的に進める方が良い。3年に渡る取組みを通して、海外の関係者が、日本の主張に徐々に耳を傾け、趣旨を理解し、グローバルに協力の輪が広がっていく様を肌で感じた。日本の主張が鳴かず飛ばずの時代も含め、担当者として、実に手触り感ある政策実現プロセスに直接立ち会えたことは幸運以外の何物でもない。その結果として、データギャップの発見という具体的な成果を示すこともでき、大きな達成感を得るとともに、世界の関係諸国から、日本がこの分野で独自の取組みを成功裏に主導したことを強く認識してもらえた。この取組みを、G20で定期的な取組みとして定着を図るには、まだまだ努力が必要である。引き続き、最終ゴールに向けて、しっかり取組みを進めていきたい。
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