ファイナンス 2023年7月号 No.692
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ファイナンス 2023 Jul. 19途上国の公的債務データの透明性と正確性の向上に向けた取組み*7) https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g7/cy2021/g7_210605.pdfG7への根回しG7等の伝統的な公的二国間債権者は、日頃から、パリクラブで透明性高く情報共有している。債務の透明性が重要との点でも一致している。そんなG7でも、広範な途上国を対象に平時の煩雑な債務データ突合を実施したことはない。G7から、費用対効果の観点から、実施の必要性に疑問を抱かれれば、G20での債務データ突合は一層遠のく。英国の債務透明性向上の取組みとの違い2021年、英国が議長を務めるG7下で、G7諸国は自国の公的貸付機関が今後新規に契約を結ぶ貸付を対外的に開示することにコミットしている*7。G7が貸付データを率先して開示することで、非G7諸国が触発され追随することを狙ったのである。日本が推し進める債務データ突合は世銀へのデータ共有であるのに対し、英国のイニシアティブは外部へのデータ開示である。また、日本の債務データ突合は、過去に供与済みかつ残高が現存する債権を対象とする一方、英国のイニシアティブは新規の貸付のみを対象とするなど、両私は、ビデオ会議をアレンジして、G7各国に丁寧に協力要請(根回し)することとした。G7に適切に意図が伝わるようスライドを用意し、債務データ突合の必要性、意義、効果、日本の成功体験、IMF・世銀からも正式に推奨されている取組みであること等、かみ砕いてスライドに盛り込み、説明した。各国が指摘しそうな点もカバーするよう心掛けた。例えば、共有したデータが勝手に外部に開示されることがないことや、パリクラブにおける危機時の個別の途上国のデータ突合とは趣旨も対象も異なること等、明確化した。G7への根回しのビデオ会議は、可能な限り一か国ずつバラバラに実施した。全員を一回のビデオ会議に集めて実施した場合、一か国でも難色を示せば、他の国もその意見に影響を受けるかもしれないし、日本が複数の国から質問攻めにあえば、良い印象を残せなくなる可能性があったからだ。それぞれの国の癖も分かっていたので、この国はこういう技術的な質問してきそうだと予測して入念に準備した。苦労の甲斐あり、各国とも日本が推し進める債務データ突合への協力を約束してくれた。者には大きな違いがあった。日本が英国のイニシアティブの焼き直しを提案しているなどと英国に誤解されたり、日本の取組みのせいで英国のイニシアティブが霞むと懸念されたりすることがないよう、私は両者の目的・違いを英国のカウンターパートに丁寧に説明した。また、英国が求める外部への開示を最終ゴールとすれば、G7以外誰もその最終ゴールに辿り着いていない。これが、世銀へのデータ共有であれば、新興債権国のアレルギー反応も若干少なくなることが期待され、ここから一歩ずつ始めれば、最終ゴールである外部への開示へと誘導しやすくなるのではないか、というナラティブで英国に説明した。英国もこの説明に納得し、日本の取組みをフルサポートしてくれた。フランスの提案を受け、日本はパリクラブメンバーからも有志の参加者を募ることとした。パリクラブは、原則毎月一度、定例の会合をパリ(仏経済財政省)もしくはビデオ会議形式で開催している。2023年1月のパリクラブ月例会合はパリでの物理開催だったので、私はパリクラブ事務局に依頼して特別セッションを設けてもらい、この取組みを私がプレゼンし、議場でメンバーへの協力要請を行った。パリから帰国後、参加してくれそうなパリクラブメンバーに、個別にメールやビデオ会議を通して根回しし、メンバーからの疑問点に一つ一つ答え、参加を慫慂した。パリクラブへの拡大G7への根回しが進む中、フランス(パリクラブ議長)が私に対し、この取組みをG7に留めず、非G7諸国を含むパリクラブメンバーにも参加を呼び掛けないかと提案してきた。言われてみれば、パリクラブの有志国も巻き込んで、より多くの国の参加の下でデータ突合を実施した方が、途上国-債権国間のデータギャップもその分多く判明するだろうし、債務データ突合を実施する意義をG20の新興債権国に、より分かり易く、理解させることができるかもしれない。いざ、貸付データ共有と突合プロセス始動へ私のプレゼンテーションと根回しを受けて共鳴するパリクラブメンバーがどれくらい現れるかは分からな

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