18 ファイナンス 2023 Jul.だと分かると、早々にトーンダウンしていったしまった事情も何となく分かった気がした。今後の戦略の検討や、G20での根回し等、水面下の調整で、世銀を全面的に頼ることはできないかもしれない、と覚悟した。債務データ突合を推進するべく、日本はIMFにも共闘を呼び掛けた。IMFは、国際収支上の問題を抱えた途上国等への資金支援を行っており、こうした諸国の公的債務の実態把握に強い関心があるに違いない、と考えたからである。しかし、IMFは途上国等に融資する際、当該国から債務データを含む詳細な情報を報告してもらうことになっており、融資を行わない国までカバーした大規模な作業に関与するモチベーションはない、IMFによる個別国の債務持続可能性分析もある程度のデータさえあれば、モデルを回すことが可能であり、詳細なデータは不要である、IMFは世銀と異なり、公的債務のデータベースを管理していないので、広範な国を対象とした債務データ突合は必須ではない、との反応であった。IMFは、債務データ突合に反対するG20メンバーとも、様々な分野で協力しなければならず、IMFのプライオリティでない本件で、彼らと事を構えたくないという気持ちもあったのかもしれない。これを受け、日本は、この件での作業のパートナーは、世銀に一本化することとした。G20では「急がば回れ」戦術にシフト日本は、G20で債務問題を取り扱う作業部会(G20国際金融アーキテクチャー作業部会)の共同議長たるフランスとも緊密に連携した。日仏両国は、G20で債務データ突合を一気呵成に押し進めることは現実的ではないとの認識で一致し、まずは、将来的な債務データ突合に向けた第一ステップとして、各メンバーがIMF・世銀に貸付データを共有したことがあるか否か、どのようなデータを共有しているか、共有にあたっての法的制約等の支障の有無等、「現状を確認」する作業から始めることとした。これなら、単なる事実関係の確認に留まり、実施のハードルは低くなる一方で、本調査結果を取っ掛かりに、今後、データ共有できる国から、共有を始めていこうと誘導しやすくもなる。回り道だが、粘り強く、地道な戦術を積み重ねることが重要と考えた。貸付データ共有とデータ突合の具体的実施方針日本と世銀の協議の結果、G7によるデータ共有をG7で先行実施する戦略へとシフト「G20」での債務データ突合の実施が長期戦となることを見据え、日本は、戦線の舞台を「G7」に移すこととした。2023年は、日本のG7議長イヤーである。議長国として重視する取組みを前進させるチャンスである。G7が債務データ突合を先行実施し、具体的な成果を出せば、その効果・意義を、周回遅れのG20に示し、取組みを後押しできる、と考えた。まずは、世銀の公的債務データのチームに、日本がG7の了解を取り付けるので、今後G7から貸付データが世銀に共有されたら、データを突合し、2023年5月11~13日に予定されているG7財務大臣・中銀総裁会議に、その結果を報告してほしいと依頼した。世銀も二つ返事で賛同してくれた。以下の要領で進めることとした。(1)G7が世銀に提出する貸付データのスコープを、世銀の希望を踏まえ、「2021年末時点で貸付残高が現存する債権」と定義する。(2)世銀は、G7の貸付データと、世銀データベースに格納されている途上国から収集したデータを突合する。この作業結果を2023年5月のG7への報告に盛り込む。その後、世銀は、以下(3)及び(4)の作業へと進む。(3)世銀は、途上国に個別のデータギャップの要因を確認する。データギャップが途上国側の事情に起因する場合は、途上国が正確なデータを途上国の統計等に反映し、世銀に報告し直すよう、途上国を指導する。(4)世銀は、債権国に個別の貸付データの整理・分類方法等を確認し、データギャップが債権国側に起因するものか否か精査する。(5)日本は、各国がデータ共有の際に使うフォーマット(エクセルシート)をデザインする。(6)世銀と日本は、G7によるデータ共有の結果を踏まえ、G20等の幅広い債権国に、定期的な貸付データ共有を求めていく。
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