ファイナンス 2023 Jul. 17途上国の公的債務データの透明性と正確性の向上に向けた取組み*6) World Bank Group President David Malpass:Remarks for G20 Finance Ministers and Central Bank Governors Meeting(2020年7月18日)https://www.worldbank.org/en/news/statement/2020/07/18/world-bank-group-president-david-malpass-remarks-at-the-g20-■nance- ministers-and-central-bank-governors-meetingけて、世銀の提案に難色を示した。自国の貸付情報を外部に共有した経験を持たないであろう新興債権国にとって、世銀の提案はハードルが高かったのかもしれない。世銀は共有された貸付データをデータ突合の目的のみに使い、世銀の外に漏らさないこと等を明確化するなど、提案の改善を図ったが、最後までG20の総意を得ることはなかった。世銀は、他のG20メンバーにも個別にデータ提供の協力を呼びかけたが、日本以外の国は、その要請に応えなかったか、応えたとしても、日本ほど詳細かつ包括的にデータ提供した国は一つもいなかった。貸付契約ごとのデータ提供は手間が掛かるため、世銀はもっと入念に根回しして、各国の担当者に、コストを上回るベネフィットがある、ということを理解してもらう必要があったのかもしれない。G20での「債務データ突合」の実施を目指すも支持は広がらず世銀の「債務データ突合」の取組みに共鳴した日本は、G20等の場で、この取組みの重要性を繰り返し主張し、G20全てのメンバーによる実施を慫慂した。日本と世銀の間での「債務データ突合」世銀は、G20の総意が得られない中、G20のメンバーに個別にアプローチし、見切り発車で貸付データ共有の協力を要請した。世銀からの要請を受け、日本の財務省は直ちに、日本の公的対外貸付機関である国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)の協力を得て、貸付契約ごとの詳細なデータを世銀に共有した。世銀は、日本の貸付データを、途上国から収集したデータと突合し、不明点があれば、我々に確認を行う等のフォローアップも行い、データギャップの原因を調査した。日本のデータ提供により、世銀は日本が貸し付けている複数の途上国について、途上国側の債務データが欠落していることを突き止めた。具体的には、スーダンでは11億ドル、ジンバブエでは2.3億ドルの債務データギャップを埋めることができた。世銀総裁も自らG20に協力要請するなど、当初は積極的に動いた*6。しかし、この取組みに否定的な新興債権国のメンバーは頑として聞かない。G7やパリクラブの伝統的債権国も、最初はこの提案に前向きな反応を示したが、時の経過とともに、この取組みを取り上げることがなくなった。途上国の債務問題は、ただでさえ、問題山積で、G20で議論すべき課題は多い。地味で、テクニカルで、作業負担も大きい「債務データ突合」は、関係諸国にとって決して優先度が高いとは言えない取組みだった。提案した当事者の世銀ですら、徐々に主張のトーンを下げ、最後は日本だけが、この件で孤軍奮闘している状態となった。その後、世銀の公的債務データチームにコンタクトできたが、彼らは統計の専門家で、バックオフィス業務が中心のため、G20での喧々諤々の議論を直接見聞きしている訳ではない。誰がどのような政治的事情から反対しているのかも知らない様子だ。普段からG20の議論に参加している世銀の債務問題担当部署なら、G20の議論に慣れており、難しい課題を推進するだけの政治的パワーやスキルを持ち合わせていることも期待できたが、バックオフィス業務中心の統計専門家では、そうした推進役としての機能は、正直、期待できない。世銀が、最初は無邪気にデータ突合を提案したものの、提案が思うようにフライしなさそう債務データの透明性・正確性向上の取組みを進める難しさ世銀が提案した「債務データ突合」をG20に広げるには、世銀自身が推進役として、もっと積極的に動くことが重要である。私は、世銀を代表してG20に参加している世銀の債務問題担当者に、今後の進め方を相談した。この担当者からは、「債務データ突合」は途上国・債権国双方にとって膨大な手間が掛かる作業であり、自分に持ち掛けられても困る、と予想外の後ろ向きの反応を示された。後から分かったことだが、「債務データ突合」を要請しているのは、この担当者の所属部署とは別の、公的債務データを編纂・公表している世銀内の別のチームであった。
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