ファイナンス 2023年7月号 No.692
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*4) https://www.worldbank.org/en/programs/debt-statistics/ids*5) IMF・世銀「G20 Operational Guidelines for Sustainable Financing – Diagnostic Tool」(2019年) https://www.imf.org/external/np/g20/pdf/2019/111519.pdf 16 ファイナンス 2023 Jul.なぜ、債務の透明性が欠如するのか?債務の透明性は非常にデリケートな問題である。特定の関係者に、借入・貸付に関する情報やデータの開示ないし共有を求めることに直結するからである。途上国によっては、公的債務の実態を明らかにするには、法律上、手続上、能力上の制約や課題を乗り越える必要がある。また、データ等の開示・共有は、途上国・債権国双方とも、それなりの作業負担を伴うものである。こうした点を背景に、債務透明性を重視する債権国ですら、データ等の共有に関して、諸手を挙げて賛成という訳でもない。況や、意図的に不透明な貸付を行っている債権国から協力を得ることは至難の業だ。公的債務の透明性を高める責任は、一義的には、借入をしている途上国政府にある。しかし、途上国の中には、それを行うだけの十分な能力がない国もいる。対応できる職員やITシステム等への投資が不十分であるケースや、法律や内部プロセスが未整備であるがゆえに、特定の省庁が、他省庁や国営企業が締結する海外との融資契約をチェックし、決裁する体制にはなっておらず、国全体の借金の状態をタイムリーに把握・統括できないケース等が指摘されている。世界銀行による公的債務データの提供の取組み世銀は、1951年より、世銀から資金を借りている低所得国・中所得国政府から詳細な債務データを収集し、これに基づき、世銀独自のデータベースを構築し、毎年、更新した公的債務データをウェブ上で公表している*4。公的債務データは、途上国の持続的な開発に極めて重要な情報であり、いわば、国際公共財である。世銀のデータベースを除いて、途上国の包括的な公的債務データを提供しているものは存在しない。こうした途上国側の資金面、体制面、技術面、意識面の問題に対処するために、IMF・世銀等の国際機関や一部のドナーが、途上国の法整備等の支援や公的債務管理の戦略策定等の技術支援を実施している。いずれも、重要な取組みだが、地道で時間がかかるのも事実である。しかし、上述の通り、途上国の中には、正確な債務データを記録・監督・報告する能力が欠如している国や、紛争や自然災害等、やむにやまれぬ事情からデータを提供できない国もおり(こうした場合、世銀は推計値を使ってデータを掲載する等の応急対応をしている)、世銀ですら、公的債務の正確なデータの収集・提供に一定の限界に直面しているのである。債権国による協力の必要性 ̶債権国は債務透明性の“ゲームチェンジャー”透明で正確な債務データの確保に関して、途上国側の努力だけに頼るのは限界がある。そこで率先して協力することが期待されるのが「債権国」である。片方(途上国)の公的対外債務データの正確性に疑義がある以上、もう片方(債権国)の貸付データと突合することで、データギャップを突き止め、その原因を究明することが、問題解決の近道である。この途上国・債権国のデータ突合を定期的に実施し、正確なデータを常に整えておくことで、途上国による過剰な借入を防止し、債務危機時には迅速に対応することが可能となる。債権国によるこの分野での協力は、債務透明性の“ゲームチェンジャー”となり得るのである。IMF・世銀も、2019年、「持続可能な貸付に係る実務指針に係る診断ツール」を策定・公表*5し、債権国が、途上国やIMF・世銀等と、定期的に、もしくは、要請を受けた場合、債務データ突合を実施することを推奨している。世銀による「債務データ突合」の提案世銀は、正確な公的対外債務データを確保すべく、2020年6月、G20諸国からの低所得国(全77か国)への貸付に関し、貸付契約ごとの詳細なデータ(貸付先、金額、金利や償還期間等の貸付条件等)を、G20が世銀に共有し、世銀が途上国から収集した債務データと突合する「債務データ突合」を実施することをG20に提案した。この世銀の提案に、一部の新興債権国メンバーは、データ突合は途上国政府の作業負担になる、債権国は世銀から借金をしている途上国と違って世銀にデータ提供する義務はない等の理由をつ

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