*1) 世界銀行「Debt Transparency in Developing Economies」(2021年) *2) パリクラブ:対外債務の返済が困難となった国に対し、公的債務の再編措置(債務の繰延や削減)を取り決めるための公的二国間債権者の非公式会合。https://documents1.worldbank.org/curated/en/743881635526394087/pdf/Debt-Transparency-in-Developing-Economies.pdf原則、毎月、仏・経済財政省で会合を開催(オンライン開催含む)。常時参加国は22カ国。*3) 本記録は、個人的見解・意見を述べるものであり、財務省の公式見解ではない。ファイナンス 2023 Jul. 15はじめに近年、途上国が、海外から、いくら、どのような条件で借り入れているのか、公的債務の状況が不透明であることへの懸念が高まっている。世界銀行は、2021年に公表したレポートにおいて、低所得国の約4割は、2年以上、ウェブ上で公的債務データを公表していないか、データが更新されていないと指摘している*1。日本の財務省は、途上国の公的債務の透明性向上を重視し、G20等の場で、その取組みの重要性を訴えてきた。日本がG7議長国を務める2023年、財務省は、国際機関や世界中の債権国を巻き込み、正確な公的債務データを確保するための取組みを主導した。この取組みは、各債権国が保有する貸付データを世銀に共有し、世銀が途上国側から収集したデータと突合することで、データの齟齬(ギャップ)を発見し、正確な債務データへと是正することを企図したものである。このような債務データの突合作業は、伝統的な先進国の債権者グループであるパリクラブ*2において、借金の返済に窮した個々の途上国の実態を把握するために個別に実施されることはある。しかし、今般の日本主導の債務データ突合は、途上国77か国(世銀と国連が低所得国と定義する国)への貸付データを対象とした、過去に例がない大規模かつ平時のデータ突合であり、パリクラブのそれとは規模も趣旨も異なる。本稿では、途上国の公的債務の透明性を巡る課題や、G20における議論の経緯、上述の日本が主導した「貸付データ共有の取組み」が実現するまでの舞台裏等を紹介することとしたい*3。(2)途上国の一般国民は、正確な情報に基づき、政府の公的債務管理を適切に監視し、政府に適切な借入をするよう求めることができる。(3)官・民債権者や投資家は、投融資先の途上国の公的債務の状況を正確に把握の上、個別の投融資リスクを適切に査定できる。また、債務状況が透明かつ健全であれば、安心して融資を継続できる。翻って、途上国も海外から安定した資金を呼び込み、持続的な経済成長へと繋げていくことができる。また、債務の透明性は、平時だけでなく、危機時においても重要である。例えば、「債務状況が悪化し、債務再編を必要とする途上国が、債権者Aに隠れ債務を負っているのではないか」と債権者BとCが疑念を抱けば、BとCは、当該途上国が自分達の債務再編で浮いた資金を債権者Aへの秘密裏の返済に費消しかねないと警戒し、債務再編に協力しなくなるだろう。公的債務を透明性高く開示し、債権者に安心してもらうことが重要である。債務の透明性はなぜ重要か?債務透明性の向上は、その国のマクロ経済の安定性と持続的な開発の観点から極めて重要であり、幅広い関係者に恩恵をもたらすことが指摘されている。その具体的メリットは、以下のように整理できる。(1)途上国政府は、借金の現状を正確に把握の上、今後の借入の是非を適切に判断できる。これにより、身の丈を越えた借入をするリスクが低減し、将来の債務危機を未然に回避できる。途上国の公的債務データの透明性と正確性の向上に向けた取組み(世界の債権国が貸付データを共有するまでの舞台裏)国際局開発政策課 開発金融専門官 小荷田 直久
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