ファイナンス 2023年7月号 No.692
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日本議長国提案の新しい互恵的パートナーシップ“RISERISE”の立上げ 今回の新潟のG7では、RISE(ResilientandInclusiveSupply-chainEnhancement)を遅くとも本年末までに立ち上げるべく協働することに合意した。RISEは、中・低所得国の持続可能な発展を支援すると同時に、ネットゼロに向けた世界的な取組を支える、途上国そして世界全体にとって互恵的な新イニシアティブである。背景には、現在、各国が喫緊の課題として認識している供給網の強靭化がある。特に、世界的に需要の激増が見込まれるクリーンエネルギー関連製品(太陽光PV、風力タービン、蓄電池等)については、上流工程(鉱物の採掘)は比較的分散しているものの、中流(鉱物の加工・精錬)及び下流(製造・組立)は、特定地域に過度に集中するという脆弱性を抱える。これに対処すべく、今年のG7財務トラックでは、脱炭素時代における供給網強靭化を優先課題の一つとして、財政・公的金融手段の効果的活用や、G7や同様の問題意識を持つ国々、そしてOECDや世界銀行グループ等の国際機関と具体的な協働策を議論してきた。RISEは、(1)低・中所得国の機会と課題を特定する分析の実施、(2)ESG等も踏まえた投資環境の改善に資する技術支援や能力構築プログラムの提供、(3)協調投融資を促進する現場レベルでの情報共有強化の枠組みの展開、の3つの具体的活動を通じて、低・中所得国の自国産業の多様化・高付加価値化と、クリーンエネルギー関連製品の安定供給を通じたネットゼロに向けた世界的な取組の下支えを目指す。今後、RISEの早期立上げと実施に向けて、様々な関係国、機関を巻き込み、協働を深化させていくプロセスをリードしていく。ファイナンス 2023 Jul. 11を満たす上で重要な役割を果たすと同時に、重要インフラへの海外からの投資は、経済的主権にリスクをもたらすおそれがある。新興・開発途上国への、より多くの、より良いFDIを促すための投資環境の改善を目的とする、OECDの「海外直接投資の質に関するイニシアティブ」の実施を歓迎する。OECDが非OECD加盟国への取組を拡大・深化させ、非OECD加盟国の投資枠組の強化を支援することを支持する。大量破壊兵器の拡散と、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBMs)を含む前例のない数の弾道ミサイルの最近の発射を可能にした資金調達に関連する北朝鮮の不正な活動がもたらす脅威に対する深刻な懸念を共有する。金融デジタル化中央銀行デジタル通貨(CBDC)の政策ガイダンスと能力開発に対する新興・開発途上国からの需要の高まりを踏まえ、IMFの「CBDCハンドブック」に関する作業を歓迎する。 G7は、FSBの勧告等と整合的な形で、暗号資産・ステーブルコインに関する効果的な規制監督上の枠組みを実施することにコミットする。また、暗号資産に関する金融活動作業部会(FATF)基準(トラベルルール等)のグローバルな実施の加速や、分散型金融(DeFi)及び個人間で行われる取引(P2P取引)等から生じる新たなリスクに関する、FATFの取組みを支持する。金融の持続可能性と健全性国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による、気候関連開示基準の最終化等を支持する。また、生物多様性及び人的資本に関する開示に係る将来の作業に期待する。国際保健財務・保健の連携強化及びG20財務・保健合同タスクフォース(JFHTF)強化のための政治的モメンタムを集結することへのコミットメントを改めて表明する。また、パンデミックPPR(予防、備え、対応)のためのファイナンスの強化に引き続きコミットする。特に、パンデミック発生時に必要な資金を迅速かつ効率的に供給できる「サージ」ファイナンスの枠組みを検討することに合意した。さらに、G7保健大臣との合同セッションでの「財務・保健の連携強化及びPPRファイナンスに関するG7共通理解」の承認を歓迎する。国際課税より安定的で公正な国際課税制度を確立する二つの柱の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けたG7の強い政治的コミットメントを再び強調する。G7は、第1の柱に関する多国間条約(MLC)の交渉における重要な進展を認識し、合意されたタイムライン内にMLCの署名ができる状態となるよう、交渉の迅速な完了に対するコミットメントを再確認するとともに、第2の柱の実施に向けた国内法制における進展を歓迎する。column Ⅲ ウェルフェアを追求する経済政策我々の経済・社会構造のダイナミックかつ根本的な変容を遂げる中、デジタル化や持続可能性等は、GDPのような集計された単一の指標では十分に捉えられない、ウェルフェアの重要な要素のほんの一例にすぎない。会議でのジョセフ・E・スティグリッツ教授との対話を通じて、この重要な課題を再検討し、ウェルフェアの多元的な側面を強調した。政策立案者は、ウェルフェアを測定するための多元的な指標を把握するとともに、そうした指標を政策立案に反映させるための運用ツールを探求する必要がある。引き続き、ベスト・プラクティスを共有し、急速な経済・社会の変革に対応して政策検討を深めていく。

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