ファイナンス 2023年6月号 No.691
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(出所)法人企業景気予測調査、法人企業統計調査から筆者作成*6) 認知:どの質問に回答すればよいのか認識する。理解:何が問われているのか理解する。検索:記憶や記録等から適切な情報を引き出す。判断:問わ*7) Task dif■culty:質問文や選択肢の解釈、記憶の検索、比較や尺度判断などの困難度。Ability:認知的レベル、特定のテーマ等への造詣などの回答者れていることと、引き出した情報を照らし合わせて回答を作成する。表現:要求されている形で回答を表現する。の能力。Motivation:回答者にとっての質問のテーマの重要度、調査の社会的価値、責任感などの調査に対する熱心さ。図表7 法人企業景気予測調査と法人企業統計調査の売上高の推移3. Satis■cing〜調査方法によって回答が変化する回答者心理法が変わったものの、そのことによって結果に影響を与えたとはいえないというものでした。つまり調査結果の時系列の推移をみるときに特別な操作なく統計の継続性が保たれており、そのまま分析に用いることができることが確認できたといえます。今回の結果は、素人目には単なる杞憂、取り越し苦労ともみえますが、この研究の貢献として、異なる調査方法が採られたときに回答に変化が生じるケースばかりではなく、変化が生じないケースを示すことができた点があります。ここから、どのような場合に両者が区別されるのか考えていきます。それでは、回答に変化が生じるケースと生じないケースの差異は何でしょうか。調査方法によって回答が変化するということは、過去の同一の行動等について質問する場合でも、質問形式Aで聞いた場合と質問形式Bで聞いた場合の回答が異なる人が少なからず存在するということです。なぜそのようなことが起こるか、という疑問に対する一つの答えとして、「Satisficing」と呼ばれる回答者心理が考えられています。Satisficingとはsatisfy(満足させる)とsuffice(十分である)の合成語であり、Simon(1957)によって心理学等の文脈で「目的を達成するために十分な行為」を指す用語として使われました。この考え方がKrosnick & Alwin(1987), Krosnick(1991)によって調査の文脈に援用され、「満足のいく回答を作成するために最小限の労力を費やすこと」と解釈されています。なお、自計記入式質問紙についての回答の作成プロセスは「認知・理解・検索・判断・表現*6」の5ステップとされており(Dillman et al. 2014)、このステップを完遂させるのではなく一部または全部を省略することがすなわちSatisficing行動だと考えられます。例えば、全て同じ選択肢を選ぶ(Straight lining)、前に示された選択肢を選ぶ(Primacy effect)などの回答行動が知られています。このようなSatisficing行動が採られると調査方法の変更等により回答が変化することがわかります。Satisficingの起こりやすさにはTask difficulty、Ability及びMotivation*7が関係していて、下記の概 62 ファイナンス 2023 Jun.

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