ファイナンス 2023年6月号 No.691
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 20(出所)Sudman,S.,&Bradburn,N.M.(1973).Effectsoftimeandmemoryfactorsonresponseinsurveys.JournaloftheAmericanStatisticalAssociation,68(344),P805-815.(出所)法人企業景気予測調査から筆者作成 *2) 報告すべきイベント等の数え漏れにより回答レベルが減少する効果。*3) 報告すべきでないイベント(例えば、直近1週間の出来事の報告を求められたときの、2週間以上前のイベント)を錯覚して報告することにより回答レベルが増加する効果。*4) 法人企業景気予測調査では売上高等の当期の見通し、法人企業統計調査では売上高等の決算計数を利用した。*5) 両調査の計数の関連の強さを示し、値が1に近いほど関連が強く、連動していることを示す。法人企業景気予測調査では売上高等の見通しを回答しているため、法人企業統計の決算計数と原理的に一致するものではない。その意味では、各社の両計数についての相対的な位置関係を表す相関にて判断する方が変化をとらえるためにより適していると考えられる。ファイナンス 2023 Jun. 61図表5 記録の有無、設問の構成、想起の補助による回答への効果図表6 法人企業景気予測調査の調査項目の変更点場合(Aided Recall)を比較しています。読者のみなさんにご想像いただきたいのですが、まず前者の質問方法ではどうでしょうか。何の補助もなく漠然と過去の行動等を思い出すことはそれなりに難易度が高いのではないかと思われます。対して後者の質問方法のように雑誌リストが提示されていると、想起がしやすくなっているはずです。実験の結果でも、リストを見せて質問をした方が回答される雑誌数が多かったと報告しています(図表5)。記憶に対する調査に対しては、Omission error*2及びTelescoping error*3と呼ばれるエラーが作用すると考えられており、リスト形式で一つずつ判断させるような丁寧な想起を促すと、Omission errorが低減する一方でTelescoping errorが増幅され、総合して回答レベルが増加すると考えられています。このRPでは、2つの先行研究等を踏まえ、法人企業景気予測調査の調査方法の変更の影響について検証を実施しています。具体的な変更点は、図表6のように2019年度から企業収益等に関する計数項目の記入単位を前期、後期の2項目から年度の1項目に変更したものです。年度の計数を記入する場合と半期ごとの計数を記入する場合では、半期ごとの予測を段階的に考えること、あるいは丁寧に予測することにより年度の計数をまとめて聞くのとは異なるのではないかという疑問が浮かんできます。この点について実際には事前に有識者等へ諮ったうえで調査項目変更を実施しており、影響は軽微であろうことは予想されていましたが、変更してから実際に得られたデータを用いて検証を試みました。検証方法としては、法人企業景気予測調査と母集団名簿が共通している法人企業統計調査(年次別調査)を利用し、法人企業景気予測調査の調査項目の記入単位の変更前後で両統計による結果*4を比較し、変化が生じているか確認しました。図表7から、平均値及び分散では2018年度以前、2019年度以降ともほぼ一定の間隔を保っています。企業ごとの両調査の計数についての相関係数*5については、全期にわたって一貫して非常に高い値となっています。この結果から、調査方法の変更前後の調査期による違いは見られませんでした。つまり、法人企業景気予測調査においては、調査方2.3  RP「法人企業景気予測調査の調査結果の継続性の検証」

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