ファイナンス 2023年6月号 No.691
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 20(出所)全国学力・学習状況調査(2007、2008) *1) 回答した(人口÷平均世帯人数)で世帯数を計算する。ファイナンス 2023 Jun. 59図表2 テレビ等の視聴時間の回答選択肢2007年度2008年度〜実は、こうした結果が得られたことについては、「いったいどんな面白い番組が流行っていたのかと訝られたが、原因はおそらく調査票の設計にある(土屋 2014)」というのが種明かしです。2007年度の調査票と2008年度以降の調査票を見比べてみると明らかな違いがあります(図表2)。選択肢の並び順が異なっているというのが実は大きな違いです。2007年度の調査票では、1番に「全く見たり、聞いたりしない」が置かれ、そのあと視聴時間が短い順に選択肢が並んでいるのに対し、2008年度以降では選択肢の並び順が真逆になっています。ひとつひとつの回答カテゴリは全く一緒ですので、並び順がどうであれ“正しい”選択肢が選ばれれば結果に影響はないはずです。しかし、選択肢回答方式では、最初に置かれた選択肢ほど選ばれやすい傾向があることは調査の分野では良く知られています(Krosnick & Alwin 1987)。今回の調査に当てはめて考えると、2007年度は比較的短い時間の選択肢が選ばれやすい状況にあり、2008年度以降は比較的長い時間の選択肢が選ばれやすい状況にあったのです。そしてその傾向のとおりの結果が得られているというわけです。上述の例は回答選択肢の順序が回答に影響を与えているものですが、他にも質問文から受ける印象(林 1970)や複数ある質問の回答順序(Schuman & Presser 1981、Herek & Capitanio 1999)、複数回答方式か強制選択方式か(Smyth, Dillman, Christian & Stern 2006)、また調査票のレイアウトによる影響(Christian & Dillman 2004)など様々な要因が議論されています。2.1  先行研究(1) 段階的な質問による数量の推定(Armstrong et al. 1975)この研究では、クイズのように正答がある問いについて、回答として数量を推定してもらう調査を行っています。その際に図表3のように2通りの質問票を用いて、質問票Aでは世帯数を直接質問しており(Direct version)、質問票Bでは世帯数を算出するために分割された2問を質問しています(Decomposed version)*1。2.「合計」を聞くか「分割」を聞くか本年5月に財務総研から刊行されたRP「法人企業景気予測調査の調査結果の継続性の検証」は前章の問題意識に関連した研究です。このRPでは質問方法として「まとめて尋ねる(合計)」か「個別に尋ねる(分割)」か、という質問の仕方の違いによって回答に影響が生じるのかを検証したものと位置づけることができます。まずは2.1、2.2で関連する文脈での先行研究を、続いて2.3でRPの概要をご紹介いたします。こうした調査方法による回答への影響については回答データを見るだけでは気付きにくく、上述の例のように継続した調査において調査方法を変更した場合や予備調査等による検証を経ない限りはインパクトの軽重や本当に影響が生じているのかどうかを含めて判断が困難です。しかし、データに向き合う際には、そのデータがどのように計測されたもので、どのような計測上の傾向が生じうるのかについて考慮する必要があるのです。

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