ファイナンス 2023年6月号 No.691
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175823481773840英国米国日本「ミニ・バジェット」の主な内容為替市場への影響ドル/ポンドレートが一時1ポンド=1ド国債市場への影響長期国債の利回りが大幅に上昇株式市場への影響英国株を中心に売りが相次ぎ、株価は大きく下落UniversitiesSuperannuationScheme(英国大学退職年金基金)BTPensionScheme(BT年金基金)ElectricitySupplyPensionScheme(電力供給年金基金)BPPensionFund(BP年金基金)BarclaysBankUKRetirementFund(バークレイズ銀行英国退職基金)BAESystemsPensionScheme(BAEシステムズ年金基金)NationalGridUKPensionScheme(ナショナルグリッド英国年金基金)BBCPensionTrustLtd(BBC年金トラスト)ShellContributoryPensionFund(シェル拠出年金基金)(注)図表8:米国と英国は暦年、日本は年度。・英国では、2022年9月にリズ・トラス首相(当時)が打ち出した一連の財政政策「ミニ・バジェット」により、通貨・国債・株式市場が混乱した(図表1)。ドル/ポンドレートが過去最低の1.035ドル/ポンドまで下落した他、10年債金利は14年ぶりに4.5%まで上昇(債券価格は下落)、株価も1年半ぶりの水準まで低下し、トリプル安となった(図表2~4)。・こうした市場の反応を受けて、沈静化のために英中央銀行は国債買入を実施し、トラス政権は大幅な方針の変更を迫られ、その後退陣することになった。その後、市場は落ち着きを取り戻したものの、IMFによる2023年の成長率予測は、トラス・ショックを挟んで大きく下方修正されている(図表5)。・トラス政権による「ミニ・バジェット」を受けて長期金利が急騰したことで、英国の企業年金基金に代わってLDI※を運用していたファンドが巨額のマージンコール(追加証拠金の請求)に直面した。これに応ずるための資産売却によって、更なる金利の上昇が発生した。※ LDI(Liability Driven Investment)とは、主に企業年金において、年金基金の資産と負債の均衡を保つため、スワップ等のデリバティブやレポ取引を利用し、負債のキャッシュフローや・英国のLDI運用規模は、2021年には1.6兆ポンドとなり、この10年で約4倍に増えている(図表7)。ポートフォリオの多様性を見ても、年金基金の運用資産構成は、英国が特出して債券に集中している(図表8)。LDIへの依存が大きいため、ポジションの価値が変動した際に、自己資産や流動資産を利用した対応が困難だったと考えられる。・その結果、市場の混乱を増幅させることとなったが、英中央銀行が緊急的な債券買入を実施したこともあり、混乱は徐々に沈静化した。発生2022年9月・感染症対策により膨れ上がった政府債務・高インフレに対する積極的な利上げ政策・EUからの離脱(ブレクジット)の余波・景気後退が目前に迫る中、拡張的な財政背景政策への要求の高まり・恒常的な経常収支赤字・民間の海外投資家による国債保有「ミニ・バジェット」における財源確保の方法が不明瞭であったこと等が投資家の不安を招き、英国関連資産が売られたため・法人税増税計画の中止・所得税の最高税率・最低税率引き下げ・国民保険料の引き下げ・高騰するエネルギー料金凍結要因ルのパリティに迫る史上最低を更新(国債価格は大幅に下落)運用資産英国年金基金(億ポンド)2021年908469462428377269199197176(USD/GBP)1.31.21.1「ミニ・バジェット」発表11192781(%)4.53.52.51.5LDIの採用方針、(百億ポンド)投資額等180160運用資産の52%LDIはインハウス運用で管理173億ポンド(運用資産の37.5%)LDIを採用164億ポンド(運用資産の46.8%)LDIを採用5.8億ポンド(LDIファンド含む)LDIを採用14012010080604020運用資産の44%2011111927223141282716931132110161124412223082315914221130「ミニ・バジェット」発表15111927121020122013201420152016201720182019(1983年12月31日=1,000)7,6007,4007,2007,0006,800「ミニ・バジェット」発表1117(実質GDP、年間の変化率、%)2022/10時点2023/1時点予測修正差0.4米国0.4ドイツ0.0フランス0.2日本英国▲0.92020202120(%)0200920152021200920152021200920152021債券231591119271014221130261612406080株式その他1.0▲0.30.71.60.31.40.10.71.8▲0.630201212301927741222826(図表6)英国主要年金基金のLDIの採用状況(図表1)トラス・ショックについてデュレーションに合致する運用ポートフォリオを構築する戦略のことを指す。英国での採用が多くみられる(図表6)。(図表2)2022年下半期のドル/ポンドレート(図表3)2022年下半期の英国債利回り(10年)(図表7)英国のLDI運用残高(図表4)2022年下半期の英国株式(FTSE100)(図表5)IMFの世界経済見通し(WEO)による2023年の成長率予測(図表8)各国の企業年金基金の運用資産構成100コラム 経済トレンドトラス・ショックを踏まえた 経常収支・国債の海外保有・安全資産の関係大臣官房総合政策課 細江 塔陽/楠原 雅人108本稿では、英国で起きたトラス・ショックを振り返りつつ、経常収支や国債の海外保有比率、国債の安全資産としての位置づけについて考察する。LDI(債務連動型運用)トラス・ショック 50 ファイナンス 2023 Jun.

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