ファイナンス 2023年6月号 No.691
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ファイナンス 2023 Jun. 49「はじめに」で、各章の内容が簡潔に記載されている。そして、第1章では、日本におけるこれまでのスポーツの位置づけや施策等の経緯を簡潔に整理する。すなわち、「スポーツ」は「楽しむ身体活動」「遊び」であるのだが、日本では明治以降長く学校教育の中で「体育」、則ち「心身を鍛える身体活動」として展開されてきたことを指摘する。2011年に策定されたスポーツ基本法では、体育ではないスポーツの存在を明確にしようとしているとする。そのうえで、第1期・第2期のスポーツ基本計画から第3期スポーツ基本計画と進む中で、「スポーツを活用したまちづくり」が明確に位置付けられ、深化してきたという。今後に向けては、(1)スポーツを所掌する自治体の部局を教育委員会から市民部局へ、そして体育からスポーツの振興を、(2)「まちづくりの手段としてスポーツを活用」という新たな視点を、(3)スポーツを幅広く身体活動全体として捉えることが重要、とする。第2章では、全総などの国土計画を振り返った上で、スポーツを活用したまちづくり、地域づくり、地域活性化のあり方や施策に資する方法等を探る。スポーツイベントを開催すれば多大な経済的効果を発現する時代は終焉したという。今後は、スポーツを行う、観る、支援するなどから、地域情報の発信、地域のスポーツ振興、国際交流の促進、青少年の健全育成、ボランティア・NPO組織の育成、地域アイデンティティの醸成、地域活動の促進(コミュニティの形成)、地域間・地域内交流の促進という社会的効果を発現させる。そのために、地域の自然環境を含む文化、歴史、あるいは関連産業などの地域独自の資源と連携して、地域経済の活性化につなげていくことを考えていかねばならないという。第3章では、(一財)日本スポーツコミッションによるスポーツコミッションの定義「スポーツを活用してまちづくりや地域づくりを推進することによって地域の活性化を図るという目的を達成するために、地域において設立された組織、ないしは当該組織により営まれる活動」が紹介される。アメリカに比して、日本の「スポーツ」は今でも教育的要素が強く、施設も公的施設が極めて多いことから、日本のスポーツコミッションも公的な活動(=まちづくり、地域づくり、地域の活性化)に資する組織として位置付けたという。第4章では、(一財)日本スポーツコミッションが開催する研究会の常連で、島根県出雲市で活動するNPO法人出雲スポーツ振興21の諸活動が紹介される。特に、緑化推進事業(校庭等の芝生化)は非常に素晴らしい取り組みだと感じた。地域で子どもを育てるきっかけづくりを目指しているという。町田誠氏のコラムでも指摘されているが、公園は不思議な公共空間で、自分のイメージ通りの公園の利用が妨げられると、苦情・クレームがくる。そうなると、公園管理者がたまらず禁止看板を立てまくる。公園の管理もまだまだ保守的で、「一般の利用者」は公園管理者がよく使うほぼ謎の概念だそうだ。そうすると、こどもたちがのびのびとボール遊びもできないという「文化的な社会」と言えない状況が生じる。「豊かで素敵なコミュニティ形成、地域形成のために公園があり、スポーツがある」というのだ。第5章は、スポーツコミッションのお手本ともいうべき、フィルムコミッションについて、経緯、現状、今後の課題が簡潔に示される。ハリウッドなどの映画製作にかける事業費の規模が日本とはけた違いであり、経済効果にも大きな差がある。そのような状況で、増大する国内の作品支援が負担ばかり重くなっており、本来の趣旨に立ち返る必要があるという指摘にははっとさせられた。第6章はサイクルツーリズムを例にスポーツツーリズムについて説明がなされる。第7章では、広島県北広島町における校庭の芝生化やソフトテニスクラブの誘致や住民との交流などが紹介される。第8章は、バレエをきっかけとしたコミュニティ形成、第9章は障がい者の可能性をひらくスポーツからの事例を紹介している。第IV部では、景観などを専門とする堀繁氏が、まちづくりでは観光も含めて地域にお金がおちる方策を考えることが重要とし、その観点から関係者と突っ込んだ議論を展開している。「おわりに」で、編著者の木田氏が四半世紀にわたって「スポーツを活用したまちづくり」を提唱・推進してきたことを振り返り、ここにきて、やっと、緒に就いたとするが、まだまだ充分ではないという認識を示す。地域活性化の今後にも大きな可能性を持つ、この「スポーツを活用したまちづくり」について、「(一財)日本スポーツコミッション」に関係する様々な方々が結集して本書が出来上がった。この取り組みを知るための最適な1冊として広く一読をお勧めしたい。

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