ファイナンス 2023年6月号 No.691
50/78

[3]. 服部孝洋(2022b)「AT1債およびバーゼルIII 適格Tier2債(BⅢT2債)入門―バーゼルIII対応資本性証券(ハイブリッド証券)について―」『ファイナンス』12月号[4]. 服部孝洋(2023a)「資本保全バッファー(CCB)およびカウンター・シクリカル・バッファー(CCyB)入門―バーゼル規制における資本バッファーを通じた「プロシカリティ」への対応について―」『ファイナンス』2月号[7]. 服部孝洋(2023d)「我が国における金融機関の秩序ある処理(特定第一号措置及び特定第二号措置)―預金保険法126条の二について―」『ファイナンス』5月号[9]. 森田宗男(2015)「国際金融規制改革の最近の動向」『証券レ*9) なお、望ましい処理戦略としていずれを選択した場合であっても、実際にどのような処理を行うかについては、個別の事案毎に当該本邦TLAC対象SIBsの実態を考慮のうえで決定すべきことに留意してください。参考文献[1]. 小立敬(2014)「GLAC(あるいはTLAC)を巡る議論の整理」『野村資本市場クォータリー』[2]. 服部孝洋(2022a)「バーゼル規制入門―自己資本比率規制を中心に―」『ファイナンス』10月号[5]. 服部孝洋(2023b)「システム上重要な銀行入門−「大きすぎて潰せない(TBTF)」問題について−」『ファイナンス』3月号.[6]. 服部孝洋(2023c)「金融機関の破綻処理及び預金保険入門」『ファイナンス』4月号[8]. 秀島弘高(2021)「バーゼル委員会の舞台裏」金融財政事情研究会ビュー』日本証券経済研究所[編]55(1), 1-67.我が国におけるTLAC(総損失吸収力)規制BOX 2 GLACとTLAC本稿で説明したとおり、TLACは、CET1等のゴーイング・コンサーン・キャピタルとゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力で構成されます。もっとも、2015年当初は、ゴーイング・コンサーン・キャピタルも含むTLACではなく、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力のみで一定程度、資金調達を求めるという議論もなされていました。こういった形の資金調達手段は、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力の意味から、Gone-Concern Loss Absorbing Capacity(GLAC)といいます(実務家は、「ジー・ラック」と読みます)。森田(2015)は、もともとはTLACでなく、GLACとして議論が始まったと指摘しています。その中で、GLACではなくTLACが選ばれた理由として、「バーゼル規制の規制資本と合わせたトータルで何%水準を確保させるか」(p.59)という形でバーゼル規制との整合性の確保を重視したから、という見方を提示しています。GLACにかかる議論を知りたい読者は、小立(2014)等を参照してください。前節での説明からもわかる通り、本邦のTLAC対象である4SIBsの望ましい処理戦略ではSPEアプローチが用いられています。金融危機の経験を経て、複雑なグループ構造の損失をどのように集約し、破綻処理を行うかということについて、SPEアプローチやMPEアプローチといった形で事前に計画を立てておくことの重要性が認識されました。例えば、リーマン・ブラザーズの破綻処理が困難であった一つの理由は、経営、ガバナンス、契約等が各国、各法域にまたがっていて、その処理においてバラバラに行われたことに起因していたともいえます。我が国では、当該金融機関グループの組織構造(グループ内の相互連関性や相互依存性を含む)を踏まえた処理可能性を考慮し、SPEアプローチとMPEアプローチのいずれかを選択することになっています*9。その意味で、我が国では一般的にSPEアプローチが用いられているものの、MPEアプローチが排除されているわけではない点に注意が必要です。しかし、金融庁としては、4SIBsの処理戦略は、金融グループの組織構造(グループ内の相互連関性や相互依存性を含む)を踏まえた処理可能性を考慮し、原則としてSPEアプローチを選択することが望ましいとしています。国際的に見ても、巨大な金融機関の破綻処理では、多くの場合、SPEが用いられています。当該金融機関の営業範囲は国、法域を超えて広がり、金融機関同士も資金やサポート・サービスを共有する等、相互に結びついています。このように統合された構造ゆえ、グループ全体の価値毀損を防ぎつつ、金融システムにおける悪影響の伝播の可能性を回避しながら、そのグループの一部に対して秩序ある破綻処理を行うことは容易ではありません。もっとも、英HSBCやスペインのサンタンデール等、MPEアプローチが望ましい破綻処理戦略とされている金融機関グループがある点にも注意してください。5.おわりに本稿ではTLAC規制の基本的な考え方についての説明を行いました。次回は我が国におけるTLAC規制の詳細を議論します。4.3 国際的にはSPEアプローチが普及 46 ファイナンス 2023 Jun.

元のページ  ../index.html#50

このブックを見る