ファイナンス 2023年6月号 No.691
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(3)内部TLACを通じて持株会社に損失移転(4)株式価値の低下や社債等のベイルインを通じて外部の投資家に損失を移転図表7 内部TLACおよび外部TLACを通じて外部投資家に損失を移転させるイメージ外部TLAC内部TLAC銀行4.2 SPEアプローチとMPEアプローチの概要を説明しましたが、我が国におけるTLAC規制の詳細について議論する前に、本節では、グローバルにビジネスを展開する巨大金融機関をどのように破綻処理するかについて議論を深めます。そもそも、巨大な金融機関は世界各国でビジネスを展開することが少なくありません。もし、我が国において他国の巨大な金融機関がビジネスを展開しており、当該金融機関が破綻した場合、我が国の金融システムに多大な影響を与えることになります。このことは他国についても同様であるため、バーゼル規制では、国際的に活動する金融機関に対して最低限満たすべき規制をかけることにより、各国における金融システムの安定が企図されています(これは服部(2022a)で説明したバーゼル規制のパスポートとしての機能です)。その意味で、日本政府は、日本のG-SIBsを監督する必要があるとともに、他国のG-SIBsが日本で展開する子会社の監督・規制を行う必要もあります。前者の場合、日本政府は、日本のG-SIBsに対して、当局として規制・監督を行いますが、これは母国(ホーム)においての当局の役割であることから、「ホーム(母国)当局」といいます。一方、後者の場合、日本の当局は日本でビジネスを展開する海外の金融機関に対しても監督・規制を行い、これは現地における役割であることから、「ホスト(現地)当局」と呼ばれます。例えば、日本の金融機関が米国にビジネスを展開した場合、米国当局はホスト当局として日本の金融機関の監督・規制を行うことになるのです。したがって、グローバルでビジネスを展開する金融機関に規制を課すためには、各国の当局が連携して規制・監督をする必要があります。このように国境を超えてビジネスを展開する金融機関に対して、各国は連携して規制・監督を行っているわけですが、本稿で問題にしたいのは、巨大なグローバル金融機関の破綻処理をどのように行うのかということです。システム上重要な金融機関の破綻処理戦略は、大きく分けて二つの方法があります。一つ目の方法は、単一の当局が、金融機関グループの最上位に位置する持株会社等に対して破綻処理権限を行使することで、当該金融グループを一体として処理する方法です。これをSPE(Single Point of Entry)アプローチといいます。これは前節で説明した破綻処理方法であり、我が国では、メガバンクおよび野村ホールディングス(4SIBs)に対してこの方法が取られています。図表8がそのイメージを記載していますが、SPEでは、グループの最上位持株会社が株式や社債等により資金を調達し、その子会社に対し、資本や貸付金として資金を供給しているグループ構造を利用します。当該グループの破綻処理にあたっては、当該最上位持株会社の株主・債権者に損失を負担させること等により、モラルハザードを防ぐ一方で、子会社の行っている重持株会社その他外部投資家 44 ファイナンス 2023 Jun.

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