ファイナンス 2023年6月号 No.691
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(1)株式や社債等を発行外部TLAC(最終的に損失吸収する主体)(2)出資や貸付等内部TLAC ファイナンス 2023 Jun. 43図表6 内部TLACと外部TLACのイメージ我が国におけるTLAC(総損失吸収力)規制3.3 内部TLACと外部TLACで強調しましたが、預金には決済性があり、一定の公共性を有しています。また、預金者は元本保証を前提としており、元本棄損を許容している主体ではありません。仮に預金者に損失を負担させる(ベイルインする)となると、預金者に対し、預金の引き出しを行うインセンティブを与え、これが取り付けの問題を引き起こすリスクがあります。したがって、巨大な金融機関の破綻処理を考えれば、預金者ではなく、信用リスクをとることを許容している投資家から資金調達をする必要があることがわかります。預金の取り付けという観点でみれば、持株会社は一定程度長い年限の社債を発行する必要があります。実際の規制上、持株会社が発行する社債には長期性が求められていますが、我が国TLAC債の要件の詳細は次回の論文で議論します(その概要はBOX 1で取り上げています)。前述のとおり、巨大な金融機関に対して秩序ある処理をするためには、システム上重要な金融機関に発生した損失を持株会社に移転して、それをさらに外部の投資家に移転する必要があります。では、これはどのような仕組みで実現できるでしょうか。これを考えるうえで必要な概念が「外部TLAC」と「内部TLAC」です。図表6がそれを示した図です。まず、前述のとおり、(1)持株会社が株式や社債などを発行して、外部の投資家から資金を調達します。外部の投資家は、最終的な損失を吸収する投資家であり、この部分を「外部TLAC」といいます。そのうえで、持株会社が(2)システム上重要な銀行等に対して、外部の投資家から調達した資金を出資や貸付等で資金融通します。これは持株会社が子会社とグループの内部で資金融通をしていることから、「内部TLAC」といいます。このような仕組みをとることで、子会社の損失を持株会社に移転して、外部投資家に移転することができます。ここで実際に、子会社の銀行に巨額の損失が生まれ、債務超過のおそれ等を起こした場合を考えます。持株会社が保有する子会社株式の価値の低下に加え、前述のとおり、債務の元本削減をすることで子会社において利益が生まれ、自己資本が増加し、債務超過から資産超過に回復します。その一方で、(3)内部TLACの出し手である持株会社は元本棄損を被るので、その損失が持株会社に移転します。(4)持株会社には多大な損失が行き、倒産手続きをすることになりますが、外部の投資家の有する持株会社の社債の元本棄損等により、外部の投資家に最終的に損失が移転されます(図表7)。このように内部TLACと外部TLACを組み合わせることで、システム上重要な取引を有する子会社の損失を、外部の投資家に移転することが可能になります。前節では我が国における巨大な金融機関の破綻処理持株会社その他外部投資家4.1 ホスト当局とホーム当局銀行4. グローバルな巨大金融機関に対するベイルインの枠組み

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