ファイナンス 2023年6月号 No.691
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*除外債務はTLAC適格シニア債の5%未満にとどめることが求められるいわゆる「TLAC債」相当部分TLAC図表1 TLACのイメージ非適格シニア(除外債務)*適格シニアTier2AT1CET1資本保全バッファー等(CET1)BOX 1 我が国におけるTLAC債の要件本稿では4SIBsの持株会社が発行するシニア債(社債)がTLAC債であると説明しましたが、このシニア債をTLACに含めるためには要件(適格性)が求められています。具体的には、構造劣後や無担保・無保証、長期性、最低額面などが求められています。服部(2022)ではAT1債およびBⅢT2債の要件として、ステップアップ金利の禁止などを説明しましたが、我が国におけるTLACの要件としても、ステップアップ金利の禁止等が求められており、一定の類似性があります。紙面の関係で、ここでは要点を絞りましたが、TLAC債の要件については次回の論文で詳細に説明する予定です。となり、秩序ある破綻処理が可能になる点です。なお、TLAC規制は、バーゼルIIIにおける自己資本比率規制と同様に、所要水準を満たさない場合は厳しい監督上の対応が行われること等の工夫もなされています。なお、留意すべき事項として、バーゼルIII上求められている資本保全バッファー、G-SIBバッファー、カウンターシクリカル・バッファー(CCyB)相当分のCET1資本についてはTLACへの参入が認められて2.3  持株会社(ホールディングス)発行のシニア債(いわゆるTLAC債)の位置づけTLAC規制におけるゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力においては、BⅢT2債に加え、一定の条件を満たすシニア債も算入することが認められています。なぜ持株会社(ホールディングス)のシニア債が含められているかについては次節で説明しますが、持株会社のシニア債をTLACに含める場合、TLAC適格とされるための要件があります(その要件はBOX 1を参照ください)。TLAC適格となるシニア債のイメージとしては、BⅢT2債よりも更に債権者間における債権回収の優先順位が高く、破綻処理時には元本削減又は株式転換を行うことができる債券と考えることができます。前述のとおり、TLACの定義そのものにはAT1債やBⅢT2債等も含まれるのですが、我が国において「TLAC債」と実務家が呼ぶ場合、ほとんどの場合、持株会社(ホールディングス)が発行するシニア債を指します(図表1を参照)。我が国の金融機関が発行するTLAC債を例に挙げれば、実務家がTLAC債と呼んだ場合、3メガバンクの持株会社及びD-SIBsのうち、野村ホールディングス(「4SIBs」)が発行するシニア債(社債)を指すことがほとんどである点に注意してください。いません(図表1参照)。これは、危機時にはバッファーに該当する資本はすでに毀損されているとの考えによるものです。CCyBや資本保全バッファーについては服部(2023a)を参照してください。前節ではTLAC規制の概要を説明しましたが、ここから4SIBsに対する破綻処理戦略を具体的に説明します。前述のとおり、日本の4SIBsにおいてTLAC債等の調達手段を発行する主体は銀行そのものではなく、その持株会社となっています。多数の預金をバランス・シートの負債サイドに持つ銀行を直接処理するのでなく、銀行で発生した損失を持株会社に集約し、持株会社においてベイルインを実施することで、業務を継続しながら円滑に破綻処理を進めることが可能となりま3.我が国におけるTLAC規制3.1 4SIBsに対する破綻処理戦略 40 ファイナンス 2023 Jun.

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