ファイナンス 2023年6月号 No.691
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*4) また、筆者が政策金融課に在籍していた際に、折角、信用補完制度を担当したのであれば、この機に一つ書いてみたらどうか、というご示唆をいただいたこともあった。確かに、問題意識があっても、何も形にすることができないままでは後世の役に立つことにもならない。それならば、このご示唆も踏まえて、可能な限りで一つ書いてみようと考えたところである。現況では、仮に信用補完制度に何らかの形で新たに携わることとなった者、また官民の立場に関わらず制度について理解を深めたい者がいたとしても、まず制度改善等議論をする際の適正なスタートラインに立つだけで、非常に時間と労力を要するだろう。とはいえ、信用補完制度について、本稿だけで網羅することは、困難であると言わざるを得ない。同制度は、経済産業省(中小企業庁)や財務省等に所管がまたがり、またその歴史的経緯等もあって、非常に複雑になっているからである。一方、何らかがなければそういう理解・議論の端緒すら、現況では乏しいわけである。僅かながらも当該制度について興味を持っていただくこと、また、何らかの金融実務や政策にあたりご参考となるものが出来るならば、それに越したことは無いし、そういうものとなるよう、この機に書かせていただきたいと思う*4。なお事前にお断りしておくと、財務省は信用補完制度のうち、信用保険制度(公庫保険)からのみ関与している状況にある。そのため、信用補完制度全体を捉えるにあたり、当該制度(事業)に軸足が寄りすぎているような部分があるかもしれない。そのような部分が仮にあったとすれば、何卒ご容赦いただきたい。また、可能な限り包括的な情報量としながら、簡潔に述べるよう努めたものの、結果として文量はそれなりのものとなってしまっている。その代わり、歴史的経緯、法令、予算というように、テーマごとに切り分けているため、必要な箇所については、単独でご活用いただければ幸いである。最後に、全部で4部にわたる本稿の執筆に当たり、公庫保険及び経済産業省(中小企業庁)の皆様には、様々な面でお力添えを頂いた。改めて御礼申し上げたい。なお、意見に亘る部分は筆者個人の私的見解であり、政府や財務省の公式見解ではない。また、ありうべき誤りは、全て執筆者個人に帰属するものである。(注)  引用にあたり、原文は旧字体であるものについて、一部については、常用漢字に直している。なお、引用している条文等は、特段断りがない限り、令和5年4月1日時点のものとした。2.そもそも「信用補完制度」とは何かさて、具体的な解説は、今後述べていくとしても、中小企業者の方や金融機関職員の方、また、地方公共団体職員の方(特に中小企業政策を担当される方)ならばともかく、そもそも、この制度(信用補完制度)に限らず、信用保証協会すらどういうものか分からない、という方がおられるかもしれない。そこで、ここでは、極めて概略的ながら、現行の信用補完制度というものが、どういうものかを説明させていただければと思う。まず、この信用補完制度というものが、一般的にあまり知られていないのはなぜだろうか。その理由は、この制度が、民間金融機関が行う「貸付」とセットで運用される制度であるからに他ならない。いわゆる日常の預金や資産運用という取引では、まず接点すらないのである。また、その貸付も、信用保証協会法(昭和28年法律第196号)第1条が端的に示すように、中小企業者等を対象としている。したがって、上記の方々には非常に馴染み深い制度となるのである。○信用保証協会法(抄)(目的)第一条 この法律は、中小企業者等が銀行その他の金融機関から貸付等を受けるについてその貸付金等の債務を保証することを主たる業務とする信用保証協会の制度を確立し、もつて中小企業者等に対する金融の円滑化を図ることを目的とする。では、ここで出てきた信用保証協会が何かというと、これこそが実際に、民間金融機関が行う貸付について、万が一、借主が返済できない場合に、民間金融機関へ代位弁済を行うという「信用保証」を行う存在である。いわば、信用補完制度の最前線であり、全国に51協会ある。文字通り都道府県単位レベルで(横浜市、川崎市、名古屋市及び岐阜市には市単位でも)存在するため、まさに地域単位での資金繰り支援を行うことが可能となっている。そして、上記の保証を受けるにあたっては、信用保証協会による審査が行われるととも 28 ファイナンス 2023 Jun.

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