ファイナンス 2023年6月号 No.691
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*1) 新型コロナ対策の一環として導入された資金繰り支援策であるが、そのスキームを非常に単純化して述べると、セーフティネット保証4号等の保証メニューを以て、中小企業者等への民間金融機関の融資を「無担保」とし(当該保証メニューに必要な保証料も、別途補助される)、かつそこに、地方公共団体の制度融資を活用する形で利子分を補助することで「実質無利子化」としたものである。したがって、当該制度は、信用補完制度と密接な関係があるわけである。*2) とはいえ、起業等の機会でもなければ、社会人になるまで関わる機会はないであろうし、社会人になっても、中小企業者の方や金融機関職員、あるいは地方公共団体において中小企業政策を担当する者でなければ、知らない、聞いたこともないということが大半ではないかと思われる。*3) あくまで個人的な体験であるが、ある地方公共団体と信用補完制度について話をする機会があったところ、そもそも財務省が関係する制度であること自体、当該地方公共団体で認知していただけていなかったようである。実際、それは無理からぬことと思う。ファイナンス 2023 Jun. 271.はじめに今般の新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)に係る資金繰り支援において、「民間ゼロゼロ融資*1」という言葉を聞いた方は非常に多いだろう。その際、活用されたスキームの一つが「信用補完制度」であるが、「信用補完制度」がどういう制度か、と言われるとなかなか表現しづらい、という方は多いのではないだろうか。では、少し言葉を変えて「信用保証協会」という機関はどうだろうか。中小企業者の方や金融機関職員の方にとっては、また各地域に即した、いわゆる制度融資を設計・運用する上で、地方公共団体職員の方にとっては、信用保証協会という存在は馴染みあるものであろうと思う*2。一方で、信用保証協会は、現代日本における信用補完制度のあくまで一構成要素であり、どのような仕組みでその安定的な運用がなされているか、よく使う保証メニューが何によって決まっているのか、ということまで認識されていることは、殆どないのが実態ではなかろうか。ましてや、財務省が関係していること自体、殆ど知られていないであろう*3。実際のところ、信用補完制度がどのようなスキームなのかについて、一般的に解説しているようなものは乏しいというのが率直な感想である。確かに、例えば金融機関職員の方にとっては、どのような保証メニューがあって、どう申請してということが実務上大事であり、地方公共団体職員の方にとっても、どういった保証メニューを活用して制度融資を運営しようかということが第一であろうから、そのような全体像の解説需要は乏しいのだろう。しかしながら、先述の民間ゼロゼロ融資により、信用補完制度の運営環境は、新型コロナ対策以前と大きく異なってきている。そのことは、株式会社日本政策金融公庫の信用保険事業(以下「公庫保険」という。)の保険引受額が端的に示してくれている。信用補完制度は、信用保証制度と信用保険制度の2つの制度から成立しており、端的に言えば、信用保証制度による民間金融機関の貸付債権に係る保証は、信用保険制度によってまとめて保険される仕組みとなっている。したがって、信用保険制度を実際に運営する公庫保険の保険引受額を見れば、その利用状況が把握できるところ、令和2年度を新型コロナ対策の初年度とするならば、令和2年度は前年度比で約4倍(399%)にまで拡大したのである。過去に無い環境変化が明白に生じているならば、制度のパーツ・パーツでの部分最適化も勿論重要ではあるけれども、その制度全体像を認識・把握することも、中長期的視点に立てば、信用補完制度をより良くしていく上で非常に重要なことではないかと思われる。また、上記に限らず、信用補完制度を担当する機会をいただく中で常々思っていたことであるが、そもそも信用補完制度について、ある大きな制度改正時の資料や、専門誌としての記載はあるとしても、全体像を解説したようなものは先述のように非常に少ないように思われ、その点、何かまとまった解説があってもよいのではないかとも思うのである。大臣官房信用機構課地震再保険係長(前 政策金融課政策金融第2係長) 中川 忠明信用補完制度の解説~主に信用保険制度の観点から~(Ⅰ)

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