ファイナンス 2023年6月号 No.691
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ファイナンス 2023 Jun. 25スリランカの債務再編他の債権国とも一線を画す特別な存在である。また2023年のG20の議長国を務める大国でもある。そのインドが、パリクラブの最大債権者たる日本と、パリクラブ事務局を擁するフランスと共に、スリランカの債務問題を主導するという流れは極めて自然ではあった。自然ではあるものの、インドとパリクラブが債務再編で個別に協調体制を敷くことは、パリクラブ約70年の歴史の中でも例がない。インドの決断は、パリクラブにとっても大きな転機を迎えるものであり、このことは、他の債権国からも評価された。耳目を集めるイベントを開催する以上、我々財務省のスタッフは、イベント会場の確保や参加者の確保など、かなり前から周到にイベントの準備を開始する必要があった。イベント開催までの時間的制約から、インドやフランス等の関係者に、日本がイベントを開催する考えがあることを早々に伝達し、両国に参加を打診したが、こうした打診は、インドが、債権国会合に参加し共同議長としてプロセスを主導する意向を日本に伝達するよりも前の段階で行わざるを得なかった。インドが債権国会合に参加する確認が得られなければ、このようなイベントを開催することもできない。全て不確定の状態の中、債権国会合発足のイベントの準備を進めた。インドの財務大臣の参加が確認できたのはイベントの1週間前だった。イベント開催が確実となったところで、ようやくスリランカとの調整も開始した。全てが時間との戦いで、スピーチ原稿や議事進行案はイベント当日まで内容の調整が続けられていた。債権国会合の立ち上げの公表に向けてインドの合意が得られたことで、非パリクラブ国を巻き込んだ形での債権国会合の創設の目途が立った。実現すれば史上初の枠組みであり、この枠組みを適切に始動し、これを通じて困難な債務再編交渉を最終的に妥結させることが最重要の課題となった。我々は、この難題を完遂するためには、この画期的な枠組みによる債権国会合の立ち上げを公表し、政治的にモメンタムを高めておくことが重要と考えていた。折しも、2023年4月中旬に、米国・ワシントンD.C.において、IMF・世銀の春会合が開催され多くの国際金融関係者が参集する予定だったことから、そのマージンで債権国会合の立ち上げを公表する機会を設けることとした。債権国会合発足のイベントの開催2023年4月13日、IMF・世銀春会合のマージンで、スリランカ債権国会合の発足に関するメディアイベントが開催された。債権国として、鈴木財務大臣兼金融担当大臣、インドのシタラマン財務大臣、フランスのムーラン経済・財政省国庫総局長が参加。スリランカからは、ウィクラマシンハ大統領(オンライン出席)及びウィーラシンハ国務大臣が参加。IMFからは、ゲオルギエバ専務理事及び岡村副専務理事が参加した。海外記者を含む多くのメディアが見守る中、「共通枠組」の対象にはならないスリランカについて、パリクラブと非パリクラブ国とがその垣根を超えて、広範な債権国間の協調体制の下で、同国の債務再編のプロセスを進めていくことを確認した。中所得国の債務問題に対して、広範な債権国の協調体制の下で債務再編を実施するプロセスが確立したことは、初めてのことであり、鈴木大臣も会見で「歴史的な快挙」と言及している。第1回債権国会合2023年5月9日、日本・フランス・インド3か国の次官級(神田財務官、ムーラン国庫総局長、セトゥ次官)が共同議長を務め、第1回債権国会合が開催され、債務再編交渉の口火が切られた。非パリクラブ国からも、正式参加したインドに加え、中国、サウジアラビア、イランがオブザーバー参加した。この会合では、スリランカ政府が、IMF支援プログラムに沿った経済・財政改革の実施状況を共有し、債務透明性を確保すること等にコミットしている旨、改めて表明した。債権国は、この債権国会合の下でスリランカの債務再編プロセスを進めていくことを確認した。これまでの債権国会合創設に至る道のりは、債務再編交渉の場を設けるための準備であり、債務再編交渉の本番はこれからである。なお、債権国会合は正式に始動したが、今回はオブザーバー参加に留まった中国を含め、全ての債権国は今後いつでも正式参加することができる。全ての債権国が公平に交渉に参加することが債務再編の基本中の基本だからだ。他方で、スリランカの経済状況は予断を許さず、債権国には浪費できる時間は無い。このため、仮に全ての債権国が正式参加しなくても、プロセ

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