ファイナンス 2023年6月号 No.691
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与に動いた。この際、パリクラブは、インドを含む多くの非パリクラブ国を招待して臨時会合を開き、その場でパリクラブとハンガリー(非パリクラブ国)が資金保証を供与するとともに、会合後、パリクラブと一部の非パリクラブ国による共同のステートメントを公表した。同ステートメントでは、以下の点が盛り込まれた。・パリクラブと共に、ハンガリー、サウジアラビア、インドが債務再編に向けて他の関係者と引き続き連携する・これまでパリクラブと連携してきたインドが先陣を切って資金保証を供与してくれたことに感謝の意を表する・パリクラブ、ハンガリー、サウジアラビアが、中国を含むその他の公的二国間債権者に対し、早急に資金保証を供与するよう慫慂するこのようにパリクラブが、インド、ハンガリー、サウジアラビアといった非パリクラブの債権国も名前を連ねる形で協調して資金保証を供与し、この協調行動に加わらない中国等の債権国にプレッシャーをかけるステートメントを公表できたことは過去に例がなく、非パリクラブ国との連携の観点から極めて大きな成果であったと言える。なお、中国は、IMFによると、パリクラブ及び非パリクラブ債権国による共同ステートメントの発出に遅れて、3月に資金保証を供与した。このように債権国による十分な資金保証が得られたことにより、IMFは支援プログラムの理事会プロセスを進めるのに十分な条件が揃ったと評価し、3月20日に理事会がプログラムを承認、スリランカは約30億ドルの資金パッケージのうち、初回約3億3,300万ドルの資金支援を得た。債権国会合の創設に向けた道のり協調して資金保証を供与しプログラム承認にこぎつけた次のステップは、実際に債務再編を交渉し合意する債権国会合の創設である。一部の非パリクラブ国は、多国間の債務再編交渉への参加に躊躇していた。その要因の一つとして、多国間の債務再編に参加して、債務再編を実施しても、その多国間の取組みに参加していない別の債権国とスリランカとの間で、不透明な取引や、平等性・公平性を欠く合意がなされれば、自国だけ損をするのではないか、との懸念があった。この懸念を解消するには、スリランカ政府自身が、不透明な取引等をしないとしっかりコミットし、これを確実に遵守する枠組みを作ることが何より重要である。日本の財務省としては、このためにはスリランカに強力なコミットメントを公開させることが最善だと考え、これに向けて関係国・機関と綿密に検討を重ね、調整を行った。その結果、2023年3月14日、スリランカ政府から、ウィクラマシンハ大統領名で、債権国に対して、以下の3つのコミットメントを含むオープンレターが公表されることとなった。1.スリランカは、他の債権者と債務再編に合意する前に、その内容について透明性をもって報告すると共に、債務の状況を定期的に開示する、2.スリランカは、債権者がIMF支援プログラムの内容に整合的な債務再編に合意するまでは、当該債権者に返済しない、3.スリランカは、全ての債権者から公平な債務再編の実施を確保する、その観点から、いかなる債権者とも、公的二国間債権者による多国間の枠組みの下で合意された債務再編の条件よりも優遇された条件での債務再編には合意しない、また、いかなる債権者とも、債務再編の効果を減じるような秘密裏の取引は現状行っておらず、今後も行わない、この大統領によるオープンコミットメントは、インドを含む他の債権国からも高く評価され、債権国会合の創設の重要な決定打となった。我々も、これを梃子に関係国との調整を加速した。なお、このような国家元首の名で発出される対外的なコミットメントは、政治的に対外的な信頼を懸けた文書であり、これに違反する行為を行った場合、当該国の信頼は失墜するため、外交上強力な意味合いを持つものである。インドが債権国会合の共同議長を担う旨日本に伝達オープンコミットメントにより多国間の交渉に対する懸念点が解消されたのか、3月下旬には、インドが、債権国会合に参加し、日本とフランスと共に共同議長としてプロセスを主導する意向があることを日本の財務省に伝達してきた。スリランカの隣国・インドは、スリランカとの地理的、政治的、歴史的な繋がりから 24 ファイナンス 2023 Jun.

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