ファイナンス 2023年6月号 No.691
23/78

ファイナンス 2023 Jun. 19*1) 2022年4月13日、FitchはCC→C、S&PはCCC→CCと格下げ、Moodyʼsは、同月18日にCaa2→Caへ格下げ。その後、S&PはSelective Defaultと更に格下げを実施。また、30日間の国債の支払猶予の終了後、FitchはRestricted Defaultとした。*2) 本記録は、個人的見解・意見を述べるものであり、財務省の公式見解ではない。*3) パリクラブ:対外債務の返済が困難となった国に対し、公的二国間債務の債務再編措置(債務の繰延や削減)を取り決めるための公的二国間債権者の非公式会合。原則、毎月、仏・経済財政省で開催(オンライン開催含む)。常時参加国は22カ国。(インド、中国ともにメンバーではない)はじめに2022年4月12日、スリランカ財務省が、公的対外債務の支払を一時停止する旨発表したとの報道が飛び込んできた。この発表に伴い、S&P等大手格付会社が、相次いで同国の格付*1を引き下げ、同国はデフォルト状態に陥った。日本は、同国に中国に次いで大きな額の公的債権を有する主要債権国である。一般的に、借入国がデフォルトして予定通りに返済できなくなった場合、その借入国には経済再生に向けて経済・財政改革に取り組んでもらうとともに、債権者たる日本も、他の債権国と協力しながら、焦げ付いた公的債務について、持続的な返済計画を新たに作る(債務再編する)ことで、当該借入国の経済再生を手助けしつつ、債権者として債権回収を最大化させることが必要となる。かくして、日本の財務省は、他の債権国との協調体制の構築に向けて陰に陽に調整することとなった。そして、スリランカの支払停止からちょうど1年後の2023年4月13日、日本の鈴木財務大臣は、インドのシタラマン財務大臣及びフランス経済財政省のムーラン国庫総局長(パリクラブ議長)と共に、スリランカ債権国会合の発足をアナウンスした。本稿では、この1年間、担当者としてスリランカの債務問題に向き合い、他の債権国、IMF等の国際機関、債務国であるスリランカ側と調整を行い、債権国会合の開催をアレンジするに至るまでの道のりを記録するものである*2。他国との関係もあることから、各国の立場や個別の具体的なやり取りの詳細をつまびらかにすることはできない部分もあるが、現場の最前線から見て、スリランカのプロセスが、どのような経緯を辿ったのか、説明することとしたい。このようなスリランカの位置づけを反映し、スリランカ政府の国内外からの借入構造は図1の通り多様である。海外からの借入のうち、公的二国間債権者からの借入は半分以下の101億ドル(2022年12月末時点)であり、主要債権国は中国と日本、これにインドが続く。このうち、日本は伝統的債権国のグループである「パリクラブ*3」の一員だが、中国とインドは非パリクラブ国である。借入国がデフォルトに陥り、債務再編が必要な場合、債権者間の公平性の確保が決定的に重要になる。どの債権者も、自らの負担で他の債権者が得することを受け入れ難いからだ。公平性を確保するには、主要な債権国が一堂に会して透明に具体的な債務再編の条件を交渉することが最も近道となる。単純なことのようだが、これがパリクラブの存在意義であり、長年の債務再編の経験から得た知恵でもある。このアプロースリランカの公的債務の特徴スリランカは、東南アジアと中東やアフリカ地域を結ぶ海上交通路の要衝に位置し、大型船が入港できる良港を持つこと等から、地政学上注目を浴びることが多い。日本にとっても、スリランカは、シーレーンの要衝として重要な国であり、長い交流の歴史がある。また、同国が中国への債務を返済できなくなり、中国国営企業が同国のハンバントタ港の運営権を取得したことが、いわゆる「債務の罠」の典型例とみなされたことでも、この国の名前を聞くことが多いだろう。大臣官房 副財務官 緒方 健太郎/国際局開発政策課 開発金融専門官 小荷田 直久/同課 調整係長 鳥沢 紘悠/同課係員 上坂 美香スリランカの債務再編(デフォルトから債権国会合創設までの歩み)

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る