ファイナンス 2023 May 53*8) 債権者側から債務再編についてのspeci■c and credible assurancesを提示されることによって、債務が持続可能であると見なされ、IMFの融資プログラムの実行が可能となる。具体的な債務再編内容の合意は、IMFの初回融資の実行後に合意されることが一般的である。逆を言えば、具体的な債務再編内容の合意には相当程度の時間がかかるため、それを待ってからIMF融資を実行すると迅速性が失われてしまう。あるわけだが。)また、IMFプログラムの中で、債務再編の大枠(envelop)を提示することも非常に大きな役割であり、私の所属するSPRDPやカントリー・エコノミストの腕の見せ所でもある。これは、IMFの融資等が「債務の持続可能性」を前提としており、債務が持続可能でない国には、融資が実行されないというポリシーに依拠している。言い換えれば、どの程度の債務的譲許で債務が持続可能となるかによって、必要な債務再編の大枠が決まってくる。この債務の持続可能性の判断には、低所得国(LICs)と中高所得国(MAC)のそれぞれに対して実証的データに基づいたDebt Sustainability Framework(DSF)が用意されているわけだが、議論はそれほど単純ではない。このDSF自体が各国の経済や財政の予測に基づいており、経済財政予測が楽観的であれば、必要な債務的譲許の度合いは小さくなるし、逆もまた然りである。更に、債務レベルの許容度も債務の構成やマーケットアクセスによってそれぞれであるし、債務問題の根源(例えば、短期の流動性にあるのか、債務レベルの高さにあるのか等)も異なってくるので、何をもって債務を持続可能とするのかという明確な基準が存在するわけではない。最終的には国毎の状況に応じた判断がつきものである。このように、ある意味、IMFプログラムや債務の持続可能性の分析に対する「信頼」を基に、具体的な再編内容や条件等は当事者間で交渉されることとなる。このようなIMFとの「信頼」関係も、国際的な債務関係が変化するにつれて、重要となってくるポイントである。伝統的なパリクラブとの関係の中では、IMFの持続可能性分析を基に債務再編の大枠が決められ、債権国がその枠組みにコミットすることによって、迅速なIMF融資とその後の債務再編の合意が図られてきた*8。しかしながら、もしIMFの持続可能性分析自体に不信感が残れば、そこにコミットすることにも躊躇が生まれてしまう。近年存在感を増している非パリクラブ国や私的債権者は、こうしたIMFの債務持続可能性分析に(パリクラブに比して)精通してきたとは言えないため、「コモン・フレームワーク」のように様々なステークホルダーが包括的に債務再編を議論する際には、債務持続可能性分析にも共通の理解を醸成することが重要である。実際、前述したラウンドテーブルにおいても、いつ、どのように債務持続可能分析を債権者と共有していくのかということも課題の一つとなっている。また、伝統的には、IMFの中長期的な経済・財政予測を基に、プログラム後の債務も含めて包括的な債務再編が行われる「ストック・アプローチ」がとられてきたが、近年では、プログラム期間中(あるいは一定期間内)のトリートメントと期間後のトリートメントを分離する、ないし期間後のトリートメントを条件付きにする(例えば、コモデティ価格等)などの「フロー・トリートメント」が盛んに議論されている。これは、不確実性が高まる外的環境に対応するなど、必ずしもIMFの予測に対する不信感から来ているものとは言えないが、債務者の将来の予見可能性を低下させてしまう点は慎重に考えなくてはならない。また、債権者の債務のリカバリーを高める一方で、債務者の自助努力にディスインセンティブを与えてしまう可能性(条件が完全に外生的に決まるものでない場合)やコンパティビリティ・トリートメントの担保が難しくなる可能性など、様々な議論を呼んでいる。このように、IMFと債務再編(あるいは債権者)との関係性についても、国際的な債務環境が変化するにつれて、変化が生じてきている。これまで議論してきたように、国際的な債務環境が変化するにつれて、公的な債務再編の枠組やIMFと債権者との関係にも変化が生まれてきた。ここでは主に対外的な公的債務の再編を議論してきたが、課題は対外的な債務にとどまらない。先にも簡単に触れたように、特に低所得国の中で国内的な債務のシェアは増加しているが、公的債務再編を進めるにあたって、国内債務をどのように扱うかは重要な論点である。伝統的には、国内の債務再編は、国内の金融システムや経 その他の債務再編に関わる議論と結び
元のページ ../index.html#57