ファイナンス 2023年5月号 No.690
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公的債務再編におけるIMFの役割公的債務再編において、交渉の主体はあくまでも債務者と債権者にある。他方、公的債務再編の議論において、IMFも重要な役割を担っている。1つは、上記のように、G20等の付託をうけながら、債務再編の国際的枠組みの土台を提唱することである。より実践的には、公的債務再編の中でIMFのプログラムを提供すること、また、その中で公的債務の持続可能性に必要な大枠(envelop)を提示することが挙げられる。IMFプログラムは、原則、公的な対外債務交渉の中で必要条件となっているが、これは、IMFやその他MDBsからの支援が債務再編下のファイナンスをサポートするとともに*7、プログラムの中で債務国による経済・財政改革を促進し、債務再編後の債務返済の可能性を高める効果を持つと考えられる(もちろん、IMFプログラムの期間は限定されているとともに、プログラム下で期待されたような経済・財政改革が進まず、事後的には、債務不履行が繰り返されるケースも(出典)IMF working paper 2023 (WP/23/79) “Are We Heading for Another Debt Crisis in Low-Income Countries?”を基に筆者が再集計。非パリクラブ(バイ)8%パリクラブ(バイ)39%おいて、譲許的な(concessional)ファイナンスを提供し、実質的に債務国の債務負担の軽減に寄与していると言える。1996その他債務(私的)8%WB(マルチ)21%その他マルチ19%パリクラブ(バイ)IMF(マルチ)5%2021債務証券(私的)10%非パリクラブ(バイ)20%11%その他マルチ19%IMF(マルチ)11%その他債務(私的)8%WB(マルチ)21%*7) IMFやその他のMDBsはpreferred creditor statusを保持しており、原則、公的債務再編の対象から外れることなる。その一方で、債務再編過程に非パリクラブ国も当初から債務再編の議論に巻き込むということであり、その大きな一歩として2020年11月にG20及びパリクラブで合意されたのが「コモン・フレームワーク」である。この「コモン・フレームワーク」は、DSSI対象国が公的債務の再編を求める際に、(中国を含めた)G20やパリクラブ、その他の公的債務者が共同して(jointly)債務再編に必要なパラメターを決定する枠組みであり、新たな国際的な債務環境に対応するための大きな一歩である。他方、枠組みを広げることによる課題も山積している。ここではコモン・フレームワークに対する詳しい議論は割愛するが、1956年から債務再編に関する考え方を擦り合わせてきたパリクラブとは異なり、それぞれの国によって債務再編に対する考え方や理解度、アプローチの仕方、政府の内部構造も異なるため、議論を開始するだけでも多くの時間がかかってしまうという現状がある。また、現在のコモン・フレームワークの対象は、DSSI対象国のみとなっており、日本が中心となってスリランカのクレジター・コミッティを組織したように、コモンフレームワークの対象自体をどのようにすべきかという議論もある。いずれにしても、新たな債務環境に対応するための枠組みは変革を迎えているときであり、2023年2月からは、公的な債権者(国)だけでなく、私的な債権者や債務国側も巻き込んだラウンドテーブル(Global Sovereign Debt Roundtable)が開催されており、数多くのステークホルダーの中で債務再編に関する共通認識を醸成する試みが行われている。このように、公的債務再編の共通の枠組みを持つことは一朝一夕とはいかないが、着実に歩みを進めていると言えるだろう。 52 ファイナンス 2023 May

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