50%40%30%20%10%0%ModerateLow*4) IMFのポリシーでは、以下の状況において債務は持続可能ではない(unsustainable)と見做される:there are no politically and economically feasible policies that stabilize the debt-to-GDP ratio and deliver acceptably low rollover risk without restructuring and/or exceptional bilateral support, even in the presence of Fund ■nancing。*5) ここでは債務再編に関するメリット、デメリットの議論は省くが、債務再編は債務国の負担を軽減する一方、一定期間、(国際的な)マーケットアクセスを失う等のデメリットも忘れてはいけない。*6) パリクラブのメンバーは、西欧諸国を中心とし、アジアでは日本、韓国を含めた22か国から構成される。コンパラビリティ・トリートメント(comparability treatment)とは、パリクラブが合意する内容と同等(comparable)の条件で他の債権者とも債務再編を行うよう要求するものであり、債務国がそれを履行できない場合、パリクラブの合意が停止、破棄される可能性もある。High(出典)IMF LIC DSA database (公表資料より作成可)In debt distress20192022ファイナンス 2023 May 51LIC DSAのリスク評価(DSSI対象国中のシェア)を実行する間の時間的猶予を与えてくれる。しかしながら、経済的あるいは政治的に実現可能な政策では将来にわたる債務危機を回避できない*4、あるいは実際にデフォルトの状況に陥ってしまった場合は、公的債務の再編が必要となってくる。実際に、パンデミック後の世界においては、アルゼンチンのような債務再編の常連国に加えて、例えばスリナム、チャド、エチオピア、ザンビア、最近ではスリランカなど、明らかに公的債務再編のペースが速まっている。その他の国においても、債務再編のプレッシャーは高まる一方だ。例えば、下グラフにも示されているように、DSSI対象国のうち、2019年において49%が高リスク(high risk of debt distress)ないし債務ストレス下(in-debt distress)であったのが、2022年においては55%が高リスクないし債務ストレス下となっている。このように、公的債務再編の「ニーズ」が急速に高まっている中で、それを受け止める債務再編の枠組みを整えることは、大変重要な課題である。迅速な債務の再編は、もちろん債務国やその国民にとって死活問題であるが、債権国(者)にとっても、債務の回収可能性を最大化するという目的につながりうる*5。次節においては、その債務再編の枠組みの変遷とそれを取り巻く環境について議論する。公的債務再編における最大の課題は、世界共通の枠組みがないことにある。世界共通の枠組みがないことによって、債務再編のニーズが高まる中、迅速な課題解決ができず、その間に債務問題が益々悪化してしまう可能性がある。もちろん、国際的な債務再編の枠組みが何もないかというとそうではない。ファイナンス令和5年4月号(小荷田:アルゼンチンの債務再編と今後の債務問題の展望)でも詳しく述べられているとおり、伝統的には、フランス財務省が事務局を担う「パリクラブ」が公的債務再編の中心を担っており、パリクラブが「コンパラビリティ・トリートメント」をその他の債権者にも求めることによって、公的債務再編を完遂してきた*6。しかしながら、このパリクラブの中心的な役割は低下してきていると言わざるを得ない。例えば、低所得国(LICs)の対外債務の債権者割合を見ると、HIPCイニシアティブが提唱された1996年当時においては、パリクラブ国が39%、非パリクラブ国が8%、私的債権者が8%を占めていたのに対して、2021年においては、パリクラブ国が11%、非パリクラブ国が20%、私的債権者が19%となっている(次頁グラフ参照)。想像に難くないように、この非パリクラブの中では、中国が大きくシェアを拡大しているとともに、インドやサウジアラビアなどもシェアを伸ばしている。更に、ここ10年の低所得国の中では、対外債務に比して、対内債務(国内や通貨同盟国内の債権者)の割合も上がっていることに注目しなくてはならない。つまり、パリクラブが公的債務再編に合意したとしても、パリクラブ以外の債権者が合意できなければ、実効性のある債務再編ができない状況となってきている。また、パリクラブ以外の債権者としては、少数派となったパリクラブから求められた「コンパラビリティ・トリートメント」に合意することは納得しずらい状況となってきている。ここで重要となるのが、 公的債務再編の枠組みの変遷とその背景
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