FOREIGNFOREIGNWATCHERWATCHER 国際的な債務環境*1) ここでは、公的債務再編は、債務者が政府等の公的機関であることを指し、債権者は公的機関、私的機関のどちらも含まれるものと考える。*2) DSSIは、パンデミック下において、パンデミックの抑制や人々の救済に資源を集中できるよう、一定期間の公的債務の支払いを免除する枠組みである(一定期間の債務支払いが免除されるだけであり、その債務自体が消滅するわけではない)。G20及びパリクラブ等において2020年5月に合意され、その後2回の延長を経て、2021年12月末までの免除が認められることとなった。対象国は、低所得国を中心とする73か国に及ぶ。*3) それぞれのポリシーについての詳細は省くが、関心のある方は以下のリンクを参考にされたい(Guidance Note on Implementing the Debt Limits Policy in Fund Supported Programs; Reviews of the Fundʼs Sovereign ARREARS Policies and Perimeter; Staff Guidance Note on the Sovereign Risk and Debt Sustainability Framework for Market Access Countries) はじめに*12020年10月からIMFに勤務し、SPRのDebt Policy Division(SPRDP)において、国際的な債務に関するルール作りや個別の債務案件に従事してきた。勤務開始時はパンデミックの真っ只中であり、100%自宅から仕事をするという特殊な環境であったが、コロナ下におけるIMFの仕事、その中でも債務関係の仕事は忙しさを増すばかりであった。私自身も勤務した当初からG20のDebt Service Suspension Initiative(DSSI)*2の2回目の延長に携わらせてもらったが、その後もDebt Limit Policy、LIO/LIOAのレビューやMAC DSFの改訂など、IMFに関連する国際的な債務制度が大きく変わっていった数年間だったように思う*3。また、コロナ下において、メンバー各国が財政や国際収支の悪化に苦しむ中、緊急的な融資を含むIMFプログラムの数も急上昇していった。その中でも、個別国に関する案件として、「公的債務の再編」は、債務政策に大きなインパクトがあると同時に、何よりも債務国やその国民に大きな爪痕を残す。SPRのエコノミストは、通常は地域局等から上がってくるレポートやその内容を審査(レビュー)する立場にあるが、同時に一つのカントリーチームの中のエコノミストとして働くことも求められている。私自身も、カントリーエコノミストの一員として、債務に大きな問題を抱える2つの個別国を担当する中で、公的債務再編の現場に携わってきた。もちろん個別国に関わる内容はここでは控えるが、こうした経験を踏まえながら、パンデミック後の世界で喫緊の課題となっている公的債務の再編について、現在の状況やその難しさ、また公的債務再編に関するIMFの役割や課題等について簡単にまとめていきたい。パンデミック後の世界において、大きく爪痕を残しているものの一つとして公的債務の上昇が挙げられる。これは日本に限った話ではない。2020年において、世界の平均的な公的債務対GDP比率は100%に近付き、その半数はコロナ前の水準を上回って推移すると考えられる(IMF April 2023 WEO)。パンデミック後におけるインフレ率の上昇は、一時的に公的債務比率を引き下げることに寄与したが、世界的な金融引き締めやドルの上昇、弱含みする経済状況は、流動性リスクを増加させ、多くの政府の頭を悩ます種となっている。もちろん、こうした債務リスクに対する第一の処方箋は財政改革や経済改革にある。また、IMFを始めとするMDBsや二国間の融資等は、改革 50 ファイナンス 2023 May 国際通貨基金エコノミスト 小池 孝英海外ウォッチャー公的債務再編*1を取り巻く環境とIMFの役割・課題
元のページ ../index.html#54