*4) ただし、中央清算機関などの一部金融機関は適用外となっています。*5) 預金保険法126条の2では、下記のように規定されており、危機対応勘定に係る条文で関連はありますが、秩序ある処理に限った規定ではない点に注意してください。(借入金及び機構債等)第百二十六条 機構は、危機対応業務を行うため必要があると認めるときは、政令で定める金額の範囲内において、内閣総理大臣及び財務大臣の認可を受けて、日本銀行、金融機関その他の者から資金の借入れ(借換えを含む。)をし、又は機構債の発行(機構債の借換えのための発行を含む。)をすることができる。預金保険法127条が「第八章 雑則」であるため、章建てとして、「第七章の二 金融システムの安定を図るための金融機関等の資産及び負債の秩序ある処理に関する措置」という形で、「秩序ある処理」に係る条文を規定しています。第126条の二については「金融システムの安定を図るための金融機関等の資産及び負債の秩序ある処理に関する措置の必要性の認定」を規定しています。なお、こうした秩序ある処理を行う必要があるとの認定は、極めて高度な判断を要します。そのため、預金保険法102条スキームと同様、内閣総理大臣が議長を務める金融危機対応会議の議を経て、内閣総理大臣が判断します。銀行だけでなく証券会社や保険会社、金融持株会社まで対象を拡大預金保険法126条の二(秩序ある処理)の特徴として強調したい点は、第一に、対象を銀行だけでなく証券会社や保険会社、金融持株会社まで拡大している点です。筆者が記載した「システム上重要な銀行入門」(服部, 2023a)で指摘したとおり、2008年の金融危機時においては、銀行ではない保険会社や証券会社(投資銀行)の破綻が金融システムに影響を与えることが問題になりました。したがって、預金保険法102条スキームでは預金取扱金融機関のみがターゲットとなっていたところ、保険会社や証券会社を含む金融機関全体にその対象が広げられました*4*5。また、メガバンクのように金融持株会社の傘下に銀行と証券会社が存在しているようなケースでも、金融持株会社に対して秩序ある処理の適用が可能になりました。迅速な破綻処理を可能に秩序ある処理の第二の特徴は、預金保険法102条において債務超過にならなければ第二号措置あるいは第三号措置が発動できないところ、迅速に破綻処理を進めることができるようになった点です。山本(2014)は、「国際的な規制協調の観点からは、グローバルにシステミックな影響をもつ金融機関(G-SIFIs)については、早期かつ迅速な破綻処理を実施する必要性は高い」(p.113)としたうえで、秩序ある処理により、「その破綻によって経済全体に著しい混乱が生ずるおそれがあるとの認定に基づき破綻処理手続が開始されている場合には、当該金融機関が債務超過に陥っていなかったとしても、事前の株主総会決議なしに、裁判所の代替許可を得ることによって、その事業を譲渡することが可能となったといえる」(p.114)としています。「秩序ある処理」は例外的な措置三点目の特徴は、預金保険法102条スキームと同様、「秩序ある処理」は例外的な措置であるという点です。具体的には、「我が国の金融市場その他の金融システムの著しい混乱が生ずるおそれがある」と金融危機対応会議が認定した場合に限って用いられることとされています。特定第一号措置や特定第二号措置の適用対象金融機関は法令上限定されていませんが、過去の預金取扱機関の破綻処理においても小規模金融機関については預金の定額保護が選択されています。このことを踏まえれば、「秩序ある処理」についても国内において一定程度の規模がある金融機関やグローバルな金融市場との結びつきが強い金融機関等の破綻処理において特に用いられる可能性が高いと考えられるでしょう。ここから特定第一号措置と特定第二号措置の中身を見ていきますが、冒頭で記載したとおり、特定第一号措置と特定第二号措置については現時点で事例がありません。したがって、以下では、服部(2023c)に比べて一般的な説明を行います(筆者の理解では、実際の事例がないことから、現時点で、このスキームのイメージがつかみにくいと考えている実務家も少なくありません)。図表5が特定第一号措置のイメージを示した図ですが、特定第一号措置では、対象となる金融機関を預金保険機構の特別監視下におき、流動性の供給等を行い 26 ファイナンス 2023 May3.秩序ある処理の概要3.1 特定第一号措置
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