ファイナンス 2023年5月号 No.690
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✓✓✓✓✓*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/(出所)日銀・金融庁・預金保険機構資料(2022)より抜粋システム上重要な金融機関(G-SIB等)について、「秩序ある破綻処理」を実現するために対応が必要な項目を記載(12項目)ベイルイン等の権限を持つ破綻処理当局を設置すること破綻処理当局は破綻処理に当たって公的資金に依存しない枠組みを設けることG-SIBについては、再建・破綻処理計画を予め作成すること母国当局と主要な関係海外当局で「危機管理グループ」をG-SIBごとに組成すること母国当局は定期的に破綻処理可能性の評価を行うこと「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」主な内容図表2 「主要な特性」の概要2.巨大金融機関の秩序ある処理2.1  Key Attributes(主要な特性)とは服部(2023b)で説明しましたが、2008年に発生した世界金融危機以降の規制改革の中で、TBTF問題を防ぐための改革が進められました。その中の主要論点として、システム上重要な金融機関の破綻処理制度の改革があり、2011年のG20カンヌ・サミットにおいて、「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性(Key Attributes of Effective Resolution Regimes for Financial Institutions, 以下「主要な特性」)」が承認されました。「主要な特性」とは、システム上重要な金融機関の破綻処理における憲法のような位置づけです。その具体的な理念は、「(1)株主や無担保債権者に損失を吸収させることを可能とするメカニズムを通じて、(2)重要な経済的機能を確保し、(3)納税者負担を回避しながら、(4)深刻な金融システムの混乱を回避しつつ、(5)金融機関を破綻処理することを可能にする」(森田, 2015)と整理できます。「主要な特性」では、こうした理念を定めているほか、グローバルに活動する巨大金融機関を複数国が協調して処理可能とするために必要な破綻処理制度が満たすべき要素について規定し、各国に対して自国における制度整備を求めています。服部(2023c)では、金融機関の破綻処理を説明するうえで、りそな銀行の事例を取り上げましたが、それは実際の事例を学ぶことで、金融機関の破綻処理のイメージを掴みやすくすることを目的としていました。もっとも、預金保険法126条の二における特定第一号措置と特定第二号措置については現時点で事例がありません。したがって、本稿では預金保険法102条スキームに比べて一般的な説明にならざるを得ない点にご留意ください。なお、本稿は筆者がこれまで記載した一連の金融規制の文献を前提とするので、基礎的な知識の確認が必要な読者は筆者が記載した「バーゼル規制入門」(服部, 2022a)や服部(2023b, c)などをご一読ください。筆者が記載してきた金融規制や債券の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。図表2は主要な特性を整理した図表です。日銀・金融庁・預金保険機構(2022)では、主要な特性に関し、(1)破綻処理の権限を持つ破綻当局を設定するとともに、法的枠組みを整えること、(2)公的資金を使わず破綻処理を行う仕組みを作ること、そして、(3)関係海外当局で連携をとるとともに、レビューを行うこと、と整理しています。アーマー等(2020)では、主要な特性は、「FDICが銀行管財人管理について開発してきた権限と手続きを反映している」(p.519)としており、これまでの破綻処理の経験をベースに各国で破綻処理について合意すべき理念と解釈できます。主要な特性の策定や実施については金融安定理事会(FSB, Financial Stability Board)がその役割を担っています。服部(2023b)で説明したとおり、FSBは金融危機以降に設立された機関であり、グローバルな金融システムの安定のため各法域の金融当局や基準設定主体(バーゼル銀行監督委員会等)の協調を通じて国際的な金融規制や提言の策定、実施状況のモニタリング、脆弱性の分析等を行っています。FSBは銀行、保険、証券といった分野横断で取り組んでおり、定期的にG20サミット、G20財務大臣・中央銀行総裁会議への報告も担っています。 24 ファイナンス 2023 May

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