ファイナンス 2023年5月号 No.690
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---- (出所)中曽(2022)及び吉良宣哉氏資料をベースに作成処理の枠組み預金等定額保護金融危機対応措置 (102条)(流動性供給・資本増強)預金取扱金融機関、秩序ある処理 (126条の二)*1) 本稿の作成にあたって、川名志郎氏、堀岡弘二氏、匿名の有識者など、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。保険金支払い方式 (狭義ペイオフ)日本版資産負債承継方法 (資金援助方式)第一号措置 (資本増強)第二号措置 預金取扱金融機関(ペイオフ・コスト超の資金援助)第三号措置 (一時国有化)特定第一号措置 証券会社、保険会社など(金融持ち株会社を含む)特定第二号措置 (特定資金援助など)対象・第一種保険事故(預金などの払い戻しの停止)または第二種保険事故(営業免許の取り消し、破産手続き開始の決定または解散の決議)・第一種保険事故・救済金融機関などによる合併等に関する金融庁長官の「適格性」の認定またはあっせん・措置が講ぜられなければ、国または地域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められるときに、金融危機対応会議の議を経て、措置可能・わが国の金融市場その他の金融システムの著しい混乱が生ずるおそれがあると認められるときに、金融危機対応会議の議を経て、措置可能発動要件・破綻金融機関でも債務超過でもないとき・破綻金融機関または債務超過・債務超過かつ破綻金融機関・第二号措置によっては左記の支障を回避することができないとき・債務超過でないとき・債務超過または支払い停止(これらのおそれを含む)処理の例日本振興銀行 (2010年)りそな銀行 (2003年)足利銀行 (2003年)ファイナンス 2023 May 23図表1 我が国における金融機関等の破綻処理制度の概要東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*11.はじめに「金融機関の破綻処理及び預金保険入門」(服部, 2023b)や「我が国における公的資金注入および一時国有化スキーム」(服部, 2023c)で説明しましたが、我が国における破綻処理制度は3つの枠組みに分かれています。具体的には、図表1で記載しているとおり、(1)「預金等定額保護」、(2)「金融危機対応措置」(預金保険法102条スキーム)、(3)「秩序ある処理」です。歴史的には、1960年代に預金保険制度が生まれ、1980年中頃、資金援助方式が導入されることで、(1)「預金等定額保護」が確立しました。その後、1990年代に不良債権問題が深刻化し、経済・金融システムに大きな影響を与えうる(システミック・リスクが生じている)状況に対処するため、暫定的制度を恒久化する形で、2000年に(2)「金融危機対応措置」(預金保険法102条スキーム)が導入されました。以上が金融危機までの我が国の破綻処理制度の流れになりますが、2008年の世界金融危機を経て、「大きすぎて潰せない(Too big to fail, TBTF)」問題を防ぐための対応や、銀行以外の業態発の金融危機への準備が求められました。その結果、我が国では預金保険法の改正により、巨大な金融機関に対する(3)「秩序ある処理」(預金保険法126の二)が確立しました。本稿では「秩序ある処理」について取り上げますが、本稿の特徴は、同制度が預金保険法102条スキームと重なる部分もあることから、預金保険法102条スキームとの比較の観点で整理を行っている点です。また、これまでの文献と比べて、預金保険法126の二の特定第二号措置に関し、G-SIBs(3メガバンク)/野村ホールディングス(4金融機関グループを総称して「4SIBs」)を軸にした説明を行っている点も特徴といえます。我が国における金融機関の秩序ある処理(特定第一号措置及び特定第二号措置)―預金保険法126条の二について―

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