ファイナンス 2023年5月号 No.690
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ファイナンス 2023 May 21れている。財務省の礎(いしずえ) 国庫課へようこそいただきたい。さらに、個人レベルで言えば、記念日貨幣セットも販売している。これは、ワインのヴィンテージのように貨幣に「年銘」が刻まれることを活かした造幣局の商品であり、ある年の「年銘」が刻印された一円、五円、十円、五十円、百円、五百円の貨幣セットが片面にあり、もう片面には写真を入れることができるようになっている。贈り物を探している方は、「造幣局オンラインショップ」と検索すればホームページから購入することが可能なので、ご確認いただきたい。次に国立印刷局であるが、国立印刷局も技術の宝庫であり、紙幣の原版を彫る工芸官の方々を筆頭に、人間国宝級の職人が多く在籍している。日本の紙幣の偽造防止技術は世界最高水準のものであり、まず紙を漉くところから工場で行っている。(国立印刷局の工場の中で紙の製造を行っている岡山工場と小田原工場は、製紙に大量の水を使用することから、清らかな大河川のほとりに工場がある。)紙幣の真ん中にある透かしは、印刷の前に、紙の製造過程で先に入れ込むものであり、こうした微細な加工が可能なのは自前で紙づくりから行っている国立印刷局ならでは、である。なお、こうした紙幣のすき入れと同じような図柄の紙を製造することは「すき入紙製造取締法」で禁止されている。印刷についてもインクの製造から行っており、偽造防止の観点から、紫外線を照射すると、券面上に日本銀行総裁印や模様の一部が発光するようなインクを調合し使用している。このほか、国立印刷局では、官報、パスポート、印紙、切手などの製造も請け負っている。とはいえ、時代は今やDX。印刷なんて時代遅れじゃないの? と思われたあなた。実は国立印刷局はDXでも時代の最先端を行っている。例えば、国立印刷局が作成している官報について見ると、データが各所から国立印刷局に送付され、それを基に国立印刷局が編集作業を行い、大量に印刷して配布する、という工程を採っている。あれっ? これはデータのまま周知すればいいんじゃね? ということで、国立印刷局に持ち込まれるデータを編集し、様式を整え、偽造防止策を施した上でオンラインで公開する、ということをすでに行っている。(同時に紙でも印刷している。)今年1月には、オンラインで公開された電子官報であっても、紙の官報と同じ効力を有する、とした解釈が閣議了解されたところである。また、官僚には馴染みの深い法案作成作業についても、昔は国立印刷局の工場まで行って読み合わせをしたものだったが、現在では大幅にデジタル化されており、あれっ? わざわざ紙に印刷しなくても、成立した法律のデータをそのままアップロードすればいいんじゃね? という流れにある。ただ、全国民の皆様にきちんと情報をお届けする、という観点からは、現時点においては「デジタルだけ」というわけにはいかない。紙とデジタルを併用し、お互いを補完しあう関係が当面必要であると考えられる。これまでも印刷のためのデータ収集・編集を行ってきており、データの取扱いには一日の長のある国立印刷局。国立印刷局にはDXに強い人材が集まっており、これまでに培ったノウハウと合わせて、デジタル化の最前線を走り続けていくことになるだろう。通貨制度を担う通貨室。企画立案から、その実行部隊までを一気通貫で所管している。造幣・紙幣の「幣」は「ぬさ」と読み、古代より「神前に供えるもの」として尊いものと言われている(※3)。通貨制度の重要性については改めて言及するまでもないが、ここが不安定になると、日本国の存立にかかわるだけでなく、国際的にも甚大な影響を与えかねない。絶対確実かつ慎重な運営が必要な所以である。日本人の通貨に対する信頼は非常に厚く、これには通貨室・造幣局・国立印刷局のこれまでの努力も寄与していると思われる。財務省の礎と言うべき仕事である。(※3) 大阪の造幣局のゲートには「幣(ぬさ)」のモチーフが飾ら最近立ち上がったばかりのチームである。CBDCとは、Central Bank Digital Currencyの略であり、すなわち、中央銀行が発行するデジタル通貨のことである。通貨は、時代により、貝殻であったり、石であったり、金銀銅などの金属であったり、紙であったりしてきたが、近年のデジタル化の流れの中で、通貨も物理的な媒体ではなく、デジタル化できないか、という観3.CBDCチーム

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