ファイナンス 2023年5月号 No.690
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ファイナンス 2023 May 19新紙幣(上から新一万円券、新五千円券、新千円券。左が表面、右が裏面。)新五百円貨幣(左が表面、右が裏面。)財務省の礎(いしずえ) 国庫課へようこそ田梅子、新千円券が北里柴三郎、ということはすでにご存じの方も多いだろう。改刷って、何のためにやるの? と思われる方もいらっしゃるかもしれない。海外では紙幣の偽造が依然として多く見られ、日本においても2004年の前回改刷から20年近くが経過し、印刷技術が大きく進化する中で、偽造の潜在的リスクが高まっている。また、世界的に見ると、目の不自由な方等に配慮した「ユニバーサルデザイン」の思想に基づく紙幣デザインが主流となってきている。これらを踏まえ、新しい日本銀行券は、偽造抵抗力が高く、誰もが使いやすいお札を目指してデザインを一新している。例えば、偽造抵抗力強化のために、傾けると肖像の向きが連続的に変わる「3Dホログラム」(銀行券への搭載は世界初)や、肖像の背景にも緻密な格子模様のすき入れを施した「高精細すき入れ」といった最先端の技術を新たに採用している。ユニバーサルデザインとしては、額面数字を大きくするとともに、識別マーク(指で触って券種を識別できるマーク)の配置を券種ごとに変えるなど、違いをさらに分かりやすくしている。さらに、外国の方にも識別しやすいよう「BANK OF JAPAN」という文字を入れたり、漢数字に替えてアラビア数字の額面数字を中央付近に大きく表示したりするなどの工夫を施している。改刷の実施は2024年度上期の予定であり、製造を担当する国立印刷局では、2021年9月に麻生前財務大臣及び黒田前日本銀行総裁臨席の下、「新日本銀行券印刷開始式」を開催し、新紙幣の製造を開始している。現在、日本銀行において新しい日本銀行券の在庫を積み上げるとともに、市中のATMや各種自動販売機などの金銭機器について、新しい紙幣への対応作業が進められている。国庫課としては、来年には皆様のお手元に確実にお届けできるよう、引き続き日本銀行や国立印刷局等と連携し、発行開始に向けた準備を着実に進めていきたい。なお、新五百円貨幣への改鋳は、すでに2021年11月に実施済みであり、おそらくお手元にはバイカラー・クラッド(※2)の新貨幣があるのではないかと思う。特にクラッドの方は外見からは何も分からないので、なぜ偽造防止になるのか、と思われるかもしれないが、自動販売機等の金銭機器のセンサーは材料特性の違いで偽貨を判別しており、クラッド仕様にすることで偽造抵抗力が向上することになる。そのほか、偽造防止の観点から、貨幣の周囲のギザギザが特定の場所だけスキマが大きい(世界初)、斜めから見ると「500」と書いてあるところに文字が浮き上がる(潜像)、微細文字や微細線の採用など、最先端の偽造防止技術が盛り込まれている。(※2) バイカラーとは2色という意味であり、外側の外周と内側の円の2種類の金属から造られていることを言う。クラッドとは異なる金属を貼り合わせた材料のことで、内側の円は3層構造になっている。また、記念貨幣の発行も所掌している。いつ、どのような記念貨幣を発行することが適当か、関係省庁とともに検討し、方針が決まれば、具体的なデザインに入る。デザインは造幣局の工芸の専門家が素案を作り、それを国庫課でアドバイザーを委嘱している美術の専門家の先生方に見ていただき、ご意見を基に修正する、というプロセスを辿る。美術の専門家としては、例えば、前文化庁長官の宮田亮平先生などにお願

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