ファイナンス 2023年5月号 No.690
21/76

ファイナンス 2023 May 17財務省の礎(いしずえ) 国庫課へようこそは国庫課、国債課、銀行課の3課があるのみであった。こうした体制の下、国庫課は、国庫金に関する事務、貨幣に関する事務のほか、資金運用や金融に関する幅広い事務を所掌していたが、大正末期から昭和期(戦前)にかけて政府の役割が増大し、金融行政の重要性が高まっていく中で、国庫課を源流とする様々な部署が誕生する。まず1925年には、郵便貯金等を原資とする資金の運用管理を担う部局として預金部が創設されたが、これは資金が巨額となり、かつ、その運用も複雑化する中で、従来、国庫課の1つの係が担当していた業務が独立したものである。1932年には、金輸出再禁止に伴う円安の進行を受けて、為替政策を強力に推進するために外国為替管理部が創設されたが、これも国庫課の事務が独立したものである。また、満州事変以降、国債消化・生産集中等の観点から金融統制を強化する必要が生じ、従来は国庫課が担当していた金融行政について、1937年に金融政策全般を企画する金融課が理財局に設置された。さらに同年、満州を中心に増大した対外投資を管理する必要性から、理財局に新たに外事課が創設されたが、対外投資に関する事務もそれまでは国庫課の所掌であった。このように国庫課から短期間に様々な部署が派生していく様は、さながら古事記の国生み神話のようである。終戦後は、理財局国庫課として今日に至る。国庫課は、創設から130年余りの間、変わることなく大蔵省・財務省に在り続けており、大蔵省・財務省の歴史を見ても稀有な存在である。こうした事実は、国庫課の業務が財務省にとって極めて重要であることの証左と言えよう。国庫課は、大きく分けて3つのグループから成る。すなわち、国庫グループ、通貨室、CBDCチームである。まず国庫グループであるが、ここはその名の通り、国のお金の出し入れを掌る、言わば国の金庫番である。「大蔵」というイメージに一番近いかもしれない。公共事業の実施や年金の支払いなど、国が行うすべての財政活動は、当然、お金の出し入れを伴い、様々な会計でそれが行われるが、それらすべては、日本銀行に設けられている政府預金という国の財布で一元的に管理されている。その預金通帳を管理しているところ、と言えばイメージしていただけるだろうか。国のお金の出し入れは、各年度の決算では歳出と歳入が一致するものの、月々とか、日々では帳尻が合わない。例えば、税収は月末から月初にかけて受入れが集中するのに対し、支払いは年度を通じて様々なタイミングで行われることから「ずれ」が生じる。このような受入れと支払いのタイミングの「ずれ」を調整し、国庫の資金繰りを行うのが主要なミッションである。ただ、ご家庭の「大蔵省」と比べて、その扱うお金の「ケタ」は、文字通り桁違いである。一般会計、特別会計を合わせて、年間を通して、約700~800兆円規模のお金の出入りがあるため、ひと月では約60~70兆円規模のお金の出入りを管理していることになる。金庫番としては、受入れと支払いのタイミングの「ずれ」がどれくらいになるのかを予め見通さなければならない。歳入の方は、税収、国債発行収入、各種保険料収入などであり、これらは過去の傾向等から概ね見通しがつくが、問題は歳出である。当初予算の執行はある程度見通せるものの、補正予算が組まれるかどうか、組まれたとして、実際に執行されるのはいつか、を予測しなければならない。各省の会計課にヒアリングをするものの、その確度は十分ではない。また、予備費の支出がある。そもそもの定義として、予備費は「予見し難い予算の不足に充てるため(憲法第87条)」のものなので、いつ使用決定されるのか、予見できてしまえば、それは語義矛盾である。また、新型コロナウイルス感染症対策や物価高対策などにより、予備費の規模が最近膨らんでいることも、国庫の資金繰りを担当する立場からは悩みの種である。一度に多額の予備費が執行されると、国庫のお金が払底するおそれがあるためである。さらには為替介入もある。これは事前には決して分国庫課の業務紹介1.国庫グループ

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る