ファイナンス 2023年5月号 No.690
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写真 3 主税局調査課課長補佐 櫻井 とおるの収入が減ってきて、食費を切り詰める必要が出てきたり、息子さんも返済のお手伝いをしないといけなくなるかもしれない。お父さんが車を買ってくれるから嬉しいなと思っていたら、話が変わってくるかもしれない。ローンを組むこと自体は悪いことではありませんが、車を買うと決めた際にそういった先のことまで含めて家族会議をしておくことが大事だと思います。「お財布の状況はこうなっています」「このように負担して頂いています」というのを説明していくのが財務省の責務だと思います。石田健さん 成長していればいいけれど、成長していなければ野放図に政策・投資はできないよね、という当たり前の議論については、誰もやりたくないものだと思います。国家公務員は政治家とは別の立場でエビデンスに基づいた意見や議論の喚起ができるのではないでしょうか。櫻井補佐 当然、社会のために言わなければならないことは言っていく必要があるという意識はありますが、社会的に合意しづらい話をどのように議論していくかは悩ましい問題と感じています。小川補佐 経済政策の成果を測定するのが難しい、あるいはデータを得るのに時間が掛かるため、リアルタイムで分析することが困難であるのも論点だと思っています。その結果、わかりやすいものとして予算の規模が取り上げられることがありますが、なにがいい政策なのか事後的に検証することが課題だと思います。石田健さん そうした状況について非常に理解できる部分が多いですし、メディアの立場としても、足下抱える課題などを考えると、それに立ち向かう財務省の業務の困難さや大変さは推測でき、理解できます。一方で、国民全体の目線で見たときに、財務省の仕事の重要性ややりがい、あるいは難しさなどについて、どういった点をお話しすると理解してもらえるとお二人はお考えですか。櫻井補佐 税の仕事でいうと、例えば、重要政策を実施するために新たな財源が必要な場合、どのようにすれば、国民の一定の納得感も得ながら所定の金額を確保できるのか、という非常に複雑かつ多量の連立方程式を解いていくことになります。こうした方程式を解いていくこと、そしてその解のメリット・デメリットを整理して提示することが自分たちの重要な役割であり、やりがいがあることだと思っています。しかし、財政は上手くいって当たり前で、正直、国民の皆さんに、日常生活の中で滅多に出てこない「財政」を扱う財務省の仕事についてイメージしてもらうことは難しいと思っています。普段の皆さんの生活の中で紐づけられる財務省の見せ方はないのでしょうか。石田さんはどう思われますか。石田健さん 連立方程式のお話は、繰り返しになりますが事情を知るメディアなどからすると非常に面白いですし、大変なのだろうなと理解できます。財務省の見せ方という質問にお答えできているかわかりませんが、国民も「成長していないのでお金が足りない」ということは理解、また不安も感じているのに、そこに対して誰も方針・メッセージを出してくれていない状況なのだと推察しています。そのため、まず国民が知りたいのは、今の財政状況を踏まえたとき、財政について「中の人」が正直どう考えているのかだと思います。石田健さん 例えば、ロシアによるウクライナへの侵攻が起こった際、イギリス国防省は、SNSでウクライナ侵攻にかかる毎日のサマリーを公開し、メディア界隈でも非常に話題になっていました。こうした反応をみるに、議論や政策決定の過程に関する情報が少しでも出てくることで安心感を生むなどの効果があると思います。例えば防衛費で言うと、増税で賄うこととされた1 12 ファイナンス 2023 May国民の知りたいことについて

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