ファイナンス 2023 May 11石田健さん 自分の認識で言えば、世間からみた「財務省」のイメージは、かつては、「エリート」というイメージと2000年代前後くらいから出てきた「財務省が悪いんじゃないか」という批判的なイメージが混在していました。ですが、2010年代の政治主導の流れの中で、財務省も含めて省庁の存在感が薄れていっているように感じています。こうした中で、予算編成や税制改正といった国家のグランドデザインの内容やその議論について、一般の方々まで届いておらず、議論も行われていないと考えています。まずこの点について、政府の中にいるお二人はどのように思われているのでしょうか。櫻井補佐 主税局の櫻井です。小川と私は主計局・主税局のバックオフィス部門として、予算や税に関して局内横断的に全体的な調整を行っています。予算や税は、様々なプロセスを経て国会で決定いただくものですが、その前提となる情報や中身が伝わっていない点については、私たちも考えていく必要があると思っています。一方で、財政については、オープンな場で積極的に議論していくこと自体が難しい空気もあり、非常に悩ましく思っています。というのも、財政状況がここまで悪化している中で、健全化していくために取り得る選択肢は、基本的には「支出を減らすか、収入を増やすか」しかないのですが、いずれも誰かしらに不都合が生じるものだからです。小川補佐 主計局の小川です。こうした空気感については、財政状況だけでなく、日本が成長できていないことが大きな要因だと思っています。成長過程においては、増えた富をどこに投下するかという前向きな議論になりますが、成長していない時には、まずどこを削るかという議論になりがちであるためです。こうした空気を変えていくために、成長に向けて、どこにお金を出していくかという議論も重要だと考えています。石田健さん もちろん省庁から「こうすべき」という主張が出ることはないと思いますが、議論を喚起するために、選択肢を提示するというのは、ひとつ大きな写真 2 石田 健さん(The HEADLINE編集長)役割ではないかと認識しています。また、成長に向けた議論については、日本でも始まっていると思いますが、財務省はそうした議論の中でどういった役割を果たしているのでしょうか。そして、こうした議論について、どのように国民に発信しているのでしょうか。小川補佐 まず成長に向けた戦略についてですが、これは政権の重要課題でもあり、大筋の方針は官邸や内閣官房が取りまとめをしつつ、それぞれの施策については、所管する省庁が中心に議論しており、そこに財務省が加わり、二人三脚で進めています。具体的には、ファイナンスの目線で、その政策の費用対効果等の観点から中身の議論について参画していくとともに、マーケットを含めた経済状況も見ながら財政の全体像をまとめていく立場にあります。そういう意味では、企業の財務部門と同じ役割と言えるかと思います。次に情報発信の部分については、個別の施策そのものの広報は担当省庁が取り組んでいます。財務省に求められるのは、その政策の実施可否をみなさんに判断してもらうため、国のお財布事情だったり、負担の在り方だったりをしっかりと説明していくことだと思っています。「国がやります」といったときに、「第三者的な存在である国」がやってくれるのだと誤解されることがありますが、「国」とは国民のみなさんの集合体であり、財政もみなさんのお財布の集合体なんです。国と家庭は同一視できないので適切な例ではないかもしれないですが、例えば家庭の例で考えてみましょう。お父さんがローンを組んで車を買って来たときに、お父さん予算編成・税制改正とは
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