*2) コンパクトシティに関する赤井先生の論文として、竹本亨・赤井伸郎・沓澤隆司、「コンパクトシティが自治体財政に与える影響」、『日本地方財政学会研究叢書』、26号、2019年、87-104 等があります。 84 ファイナンス 2023 Apr.三箇山:本特集号の論文もそうですが、理論が前半に書いてあり、それに対して実証分析をしている論文が理想的なのでしょうか。赤井:もちろんそれが一番素晴らしいですが、そうではない論文も非常に多いです。EBPMという言葉だけが行き過ぎると、何でも良いからデータを分析し、その結果としてグラフが右上がりであればとりあえず何か説明したことになった気になるということも起こりえます。しかし、実際には見せかけの相関関係などの問題の検討や対応も必要であり、実証的に分析すれば良いというものではありません。したがって、理論と実証は両方ともしっかりやらないといけないと思います。なお、定量的に様々な情報を読者に与えることができるという点で優れているため、今回の論文では実証分析を行っています。地方財政の研究において、現在研究の中心となっているテーマや、今後取り組むべき課題等はありますでしょうか。赤井:大きいテーマとしては、少子高齢化が挙げられます。その地域に住民がいる限り、地方自治体は公共サービスを提供し、財政運営を続けないといけません。将来においても財政運営が持続可能であるか、住民に公共サービスを安定的に供給していくことができるのか、そのために何をすべきなのかを見極めていくことが重要であり、研究のテーマとしても面白いです。高齢化はある程度で止まるとしても、少子化については今の状態が続くとどんどん人口が減っていくことが予想されます。東京などの大都市の地方自治体は、地方から人を吸い寄せれば当面は財政運営がなんとか持続可能だとしても、その他の地方自治体については4.地方財政研究の現在と今後の課題新川:人がどんどん減っていく中での財政運営のあり方を考えなければなりません。人が半分になってコストが半分になるのであれば問題ないのですが、実際には人が半分になってもコストは少ししか下がらないということがあり得ます。地方自治体の財政コストについては人口が増えた時にはあまり増加しない一方、人口が減った時もコストはあまり減少しないという規模の経済性があるので、人口減少に伴って住民一人当たりのコストが上がります。その状況で財政運営を行っていくためには、サービスの水準を下げるか、税金を上げるか等の対応を行う必要が生じますが、実施に至るまではなかなか難しいと思います。例えば最近は電気・ガス・水道料金が値上がりしていますが、我々の生活においてあらゆるものが値上げされると生活が苦しくなります。そこで、生活水準を落とさずに生活していくためには、効率化しかないと思います。それと同様のことが地方財政についても言えて、効率化の手段として例えばDXがあると思います。他の効率化の手段としては私が行っている研究で「コンパクトシティ*2」があります。例えば、当初100人が一定の範囲にバラバラに住んでいたとして、100人のうち50人がスポンジの気泡のようにどんどん抜けていって50人になったとします。その場合でも、公共サービスのコストは面積に相関しているので、一定の範囲に分散して50人が住んでいるとコストはほとんど減りません。しかし、100人から50人まで減った時に、50人が一か所に集まって住めば、公共サービスの対象範囲を減らすことができるので、コストがかなり下がります。ただし、現実には各世帯が家を持っていると思うので、一か所に集まるというのは実際には簡単ではなく、非現実的なやり方だと言われることがあります。ただ、解決方法は見えているので、これを実現するために何が必要なのか等を考えるのは面白いと思います。そのほか、先に述べたように東京のような大都市は地方から人を吸い寄せて成り立っているので、今と同じ状態を10年先も続けようと思うと、継続して地方の若者を連れてこなければなりません。東京が高齢化しないための条件は、地方で生まれた若者全員を連れ
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