ファイナンス 2023年4月号 No.689
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ファイナンス 2023 Apr. 83PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 183.実証分析の面白さ新川:今回の特集号のタイトルは「地方自治体行動の実証分析」でしたが、実証分析の面白さや難しさについて教えていただけますか。赤井:最近はEvidence Based Policy Making(EBPM)という言葉があるように、何事もデータに基づいて議論するのが大事になってきていると思います。実際にデータを用いて因果関係を分析するというのは、単なる憶測や勘などとは違って説得力があるし、ある現象の実態を説明することもできるので、EBPMの観点から実証分析を行うことは重要だと考えています。その際に、「理論なき実証」とよく言われるような、なんとなくAとBの関係をグラフで示すだけのものではなく、どうしてAはBに影響与えるのかという点が理論的にも突き詰められているものでなければいけません。そのため、実証分析はそのようなロジックを突き詰める理論研究とセットでやっていく必要があります。制度設計についても、なんとなく効果があるからと思ってやるのではなく、理論的に効果を把握した上でやらなければいけません。例えば税制の設計であれば、その税が与えるインセンティブや効果を理論的に突き詰めた上で、データを使って実証的に分析して税制の効果を把握するという一連の流れは重要です。赤井:私の研究ではずっと政府のガバナンスをテーマにしていて、これまでの出版物もタイトルにガバナンスと付いているものが多いです。過去には行政組織のガバナンス、インフラのガバナンスなどを扱っており、今回のFRは地方財政のガバナンスがテーマです。ガバナンスというのは組織をどのように監視していけばいいのかというものですが、その監視主体と対象については様々です。例えば、財政支援を行う国が地方自治体の財政運営を監視するという事が考えられますが、税金を払っているのは地域の住民なので、住民が地方自治体をどのように監視するのかという観点もあると思います。一方、地方自治体が出資している第3セクターといった法人を地方自治体がどう監視すればいいのかという観点もあります。民間企業においても、株主総会を通じた株主の関与についてガバナンスを議論しているように、地方自治体においてもガバナンスは永遠のテーマです。望ましいガバナンスを考えていくには、まず関心を持つことが重要です。他人事ではなくて自分事として考えるというのは、よく言われることですが大事だと思います。自分を含む多数の人がお金を拠出している状況では、自分一人がサボっても他の人がきちんとしていれば良いだとか、自分が本来納めるべき税金の額よりも少なく支払っても他の人が払っているから別に問題ないといったモラルハザードに陥りがちです。そのため、自分事としてどのように考えられるかということが重要であり、しかし実際には難しいことでもあります。最近は、フューチャー・デザインという言葉がありますが、これは、例えば、自分が20年後、30年後にもその場にいるとした場合に、今の政策をどう考えるのか自分自身に問いかけて政策を考える方法です。こうすると、今の政策が将来に与える影響を他人事から自分事として考えるようになって、従来と議論が全く違ってきます。このようにして、今ある政策を自分事として捉えることが大事になってくると思います。

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