令和4年度職員トップセミナー ファイナンス 2023 Apr. 775.成長の基盤としての社会保障給付6.社会保障制度改革への思い(1)給付は消費下支え(2)給付は投資(1)想定内の予測である高齢化かを、規定する要因について分析したものです。高齢者の就労行動に決定的な影響を与えている変数はいくつかあります。最も影響の大きなものは健康です。健康に何か問題のある場合は、60代の男性で働き続ける可能性が30%ポイント程度低下します。もうひとつが定年退職制度です。定年を経験すると働き続ける確率が18%ポイント程度低下いたします。それから年金の受給資格を得ることによって働き続ける確率が13%ポイント程度低下することも分かりました。この分析を踏まえて、高齢者の就労を促進するために大切なことは何かというと、一つは健康寿命を延ばすことです。生活習慣病の予防であるとか、あるいは様々な予防接種等によって、特に60代後半、場合によっては70代前半まできちんと普通に働ける健康状態を維持できるような医療政策を講じることが大切になります。それから在職老齢年金制度(年金月額と月給の合計額が一定水準を超えると年金が減額される)といったような高齢者の就労意欲を挫くような年金制度はやはり見直す必要があると思います。同時に、これは財務省の管轄でもあるのですが、税制においては公的年等控除という制度があって、働いて勤労収入を得るよりも引退して年金をもらう方が税制上は、これは状況によっていろいろ違ってはきますが、ざっくり言うなら有利になるような仕組みもありますので、この公的年金等控除の見直しと合わせて在職老齢年金制度を見直していくというようなことが、高齢者の就労を促進するという面では大切なことになると思います。他方で年金制度には実は就労を促進するような面もあります。繰り下げ受給といわれるものです。繰り下げ受給により給付増となりますが、在職老齢年金制度はこの繰り下げ受給の効果も減殺してしまうので、この面からも見直していく必要があると思います。年金については、制度の財政的な持続可能性はマクロ経済スライド制による実質給付額の抑制によって実現していく一方で、個人の生活の持続可能性は繰り下げ受給による給付増で実現するという二面で持続可能性を担保するシナリオが良いのかなと思います。もう一つ定年の影響ですが、これがやはり定年の年齢を少なくとも65歳には引き上げていく。さらに言えば、65歳以上も様々な形で雇用を継続できるようにする。それと同時に年功賃金についても、より傾斜を緩やかにしていくことを一体的に改革していくことになると思います。このように社会保障給付は、その制度の支え手を増やすことに役立ちます。同時に、そもそも年金所得などは高齢期の消費の下支えともなります。また医療や介護あるいは保育というのはそれ自体公的なサービスの消費となるわけですから、マクロ経済の上では需要面での消費の下支えにもなるわけです。一方で、マクロ経済の供給力、生産面でいえば、子育て支援や健康増進あるいは介護の充実といったものは、女性や高齢者といった、支え手の側で労働力率を引き上げる余地のある人口グループの労働力化を進めることにも寄与しうるわけです。さらに勤労者皆保険化を全世代型社会保障改革で進めようとしています。これは、すべての人が、特に被用者が被用者保険に加入できるようになることで、将来に不安なく就労生活を送るようになれば、消費の増加にもつながるでしょう。最後に、社会保障制度改革について、私自身は今どんな思いを抱いているのか、ということを申し上げたいと思います。冒頭に申しましたように社会保障制度改革を進めなければならない最大の背景要因は少子高齢化です。もちろん少子高齢化も完全に予測することはできませんけれども、他の経済変数に比べればずっと予測可能です。従って、それに対応して準備も可能だということです。将来世代への責任として、しっかりと予測可能な
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