ファイナンス 2023年4月号 No.689
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76 ファイナンス 2023 Apr.(3)女性の就労促進(4)高齢者の就労促進(2)労働力人口増の余地:女性、高齢者の就労そこで考えられるのが、かりに人口が減ったとしても労働力率、すなわち働く意志のある人たちの比率を高めることができれば労働力人口はそんなに減らさないで済むのではないかというシナリオです。労働力人口=15歳以上の人口×労働力率で定義されますので、労働力率を高めていくことで、人口が減っても労働力人口をある程度維持することはできるのです。そのためには現在まだ労働力率が100%ちかくまでにはなっていない女性と高齢者の労働力率を高めることが課題になってきます。という面でも持続可能性を低下させてしまうかもしれないという問題もあるわけです。30代の女性の場合、労働力率は今75%くらいですが、これを2040年には90%前後まで高めていく。そして高齢者、例えば男性の60代前半というのは高齢者になる直前ですが、労働力率は80%くらいですが、これを90%くらいまで高める。あるいは60代後半の男性でも労働力率を今50%台半ばくらいから、70%くらいにまで高める。そのように女性、高齢層の労働力率を高める方策を講じることによって、何もしなければ2040年に5,500万人を割ってしまうおそれのある労働力人口を2040年に6,195万人、ほぼ6,200万人規模で維持することも可能だというシナリオです。もちろんそれはたやすいことではありませんが、このくらいの労働力人口を維持できれば、着実に付加価値生産性を高めていくことによって、生産も維持できるかもしれないし、さらに付加価値生産性の向上分をきちんと賃金上昇分に振り分けることができれば、雇用者所得も維持できるかもしれない。したがって、社会保障制度の持続可能性を維持することができるかもしれないわけです。ここで注意していただきたいのは、いま「労働力人口」という概念を繰り返し申し上げていることです。よく「生産年齢人口」という言葉が使われます。これは15歳から64歳までの人口を生産年齢人口と言って、この人口を日本の経済社会を支える人口だと考え、そしてその人たち何人で65歳以上の人口何人を支えるのか、という説明をされたりするのですが、労働経済学の視点から言うと、生産年齢人口という用語はそろそろ使わないようにしていただきたいと思います。というのは、直近でも65歳以上で労働力として社会を支えている人は900万人以上います。つまり65歳以上の人たちでも900万人以上が日本の経済社会の支え手になっているのです。一方で15歳から20歳くらいまでの人口はほとんど学校に通っており、アルバイトはしている人はいても経済社会の支え手と言うのは無理です。そういう意味で正確な支え手の指標は生産年齢人口ではなく、労働力人口だということになるのです。この労働力人口を維持していくためには、女性と高齢者の労働力率を高めていく必要があります。先ず女性については、女性が子育てをしながら仕事を続けることのできるような仕組み、環境を整備していくことが必要です。実はそういう環境は徐々に整備されつつありまして、いわゆる女性の労働力率のM字カーブ、つまり30代になると労働力率が75%くらいに下がるのですが、実はこの75%というのも少しずつ上がってきた結果でして、M字カーブの底はだんだん埋まってきてはいるのです。これをさらに引き上げていく。そのために、待機児童ゼロというような子育て支援をもっと強化していく。同時に、子育てと両立できるような働き方という意味では長時間労働を是正していく、あるいは柔軟な働き方を可能にするような、子育てと両立する働き方改革を進めていくことも大切になります。また女性の介護離職を防ぐためにも介護サービスを充実していくことは大切です。次に高齢者の就労についてです。日本の高齢者の就労意欲は、国際的に見てもともと高いのですが、それを更に高めていくような方向に社会保障制度改革を進めていくことです。高齢者の就労、雇用を促進するときにネックとなっているのは何か、あるいはどこを改善すればよいのかということについて、私と慶應義塾大学経済学部の山田篤裕教授とで行いました共同研究の結果を簡単に述べさせていただきます。60代の男性の働くか働かない

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