講師演題1.社会保障制度改革の背景 72 ファイナンス 2023 Apr.(1)世界に類を見ない高齢化(2)二つの団塊世代問題令和5年1月16日(月)開催(3)21世紀に入って本格化した改革清家でございます。よろしくお願いいたします。現在、日本で進められている社会保障制度改革の背景にあるのは、日本の経験しつつある世界に類を見ない高齢化です。日本の高齢人口比率は既に世界で最も高く、直近ですと人口比で29%ほどになっています。2040年になると35%を超え、2060年には40%程度にまで高齢化は進むと予測されております。この「高齢化の水準の高さ」が、日本の高齢化の一つ目の特徴です。二つ目の特徴は「高齢化のスピードの速さ」です。高齢人口比率が7%から14%になるまでに日本は1970年から1994年まで24年間でした。しかしフランスでは114年かかっています。フランスなどに比べると日本の高齢化のスピードは4倍から5倍の速さです。三つ目の特徴は「高齢者の中でもより高齢な人の割合の増加」です。65歳以上の人口の中で比較的若い65歳から74歳の人口を1とした時、より高齢の75歳以上の人口の比率を見ると、2015年にはほぼ1:1だったのが、団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年には1:1.5、2060年には1:2と、とてもトップヘビーな構造になっていきます。日本の人口構造上、特に顕著な特徴として、二つの団塊の世代の問題が挙げられます。一つは「2025年問題」です。先ほど申し上げましたように、2025年には1940年代後半に生まれた団塊の世代の人たちがすべて75歳以上になり、75歳以上の人口比率は急上昇します。75歳を越えますと、有病率や要介護率が高まり、それによって社会保障給付も急増する、という問題です。もう一つが「2040年問題」です。これは団塊ジュニア世代、すなわち1970年代前半に生まれた人たちが2040年には次々と65歳以上の高齢者になっていくということです。また2040年過ぎは、高齢者の絶対数が4,000万人弱の水準でピークに達する時点でもあります。しかも団塊ジュニア世代の就職時期はいわゆる「就職氷河期」と呼ばれるほど厳しい時期であったことから、40歳代となった現在も非正規雇用の人たちが比較的多く、団塊世代よりも貧しい状態で高齢期に入る人も多くなるのではないかと予想されております。こうしたことを踏まえて、高齢化の下で日本の社会保障制度を持続可能なものにしていくために、これまでも社会保障改革を考えるいくつかの政府の会議体がつくられました。今世紀に入ってからのものをご紹介しますと、2002年に小渕内閣の下で貝塚啓明先生が座長となって「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」が開かれました。私もその末席におりましたが、そのころから政府は相当本気で社会保障構造の在り方について考え始めたのではないか、と思います。2008年には福田康夫内閣の下で吉川洋先生が座長となって「社会保障国民会議」ができました。私はその会議の中で所得確保・保障(雇用・年金)分科会の令和4年度職員 トップセミナー清家 篤 氏(日本赤十字社社長・慶應義塾学事顧問)支え手を増やす社会 保障制度に
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