7リスクテイク(注)リスクの指標として、リターンの分散あるいは標準偏差を使うことが多い。したがって、企業が「将来リターンの実現値のばらつきが大きいプロジェクトを選択すること」をリスクテイクと呼ぶ。企業のリスクテイクの水準は、このROA実現値の標準偏差で計測されることが多い。中堅・中小企業投資の例(図表11)リスクテイクの国際比較(図表14)共同投資の概念図コラム 経済トレンド 106ファイナンス 2023 Apr. 67M&Aの促進にあたっての課題M&Aの促進にあたっての取組み:共同投資(注1)複数回M&Aを実施している企業については、直近のM&Aについて回答(注2)複数回答LIXILが、政府系金融機関・Caiとともに、欧州サニタリー製品業界において強力なネットワークを有するGROHEを買収。三菱重工業が政府系金融機関・他企業とともに、パワー半導体の開発・製造企業であるFLOSFIAに投資。(出典)YasuhiroArikawa,KotaroInoue,TakujiSaito(2016)「Corporategovernance,employmentlaws,andcorporateperformanceinJapan:Aninternationalperspective」、木村 遥介(2018)「企業のガバナンスとリスクテイク」、中小企業庁「M&A実施に当たっての課題」、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)共同投資GROHELIXILのグローバル展開を推進FLOSFIA共同投資FLOSFIAの半導体技術の事業化を推進(出典)各社HPを参照の上、作成・M&A実施にあたっての課題について、事業会社へのアンケートによれば、マッチングが進まない最大の理由は「判断材料が不足していた」ことが挙げられている(図表9)。買収先の多くは、未上場企業であり、契約前に開示される情報だけでは判断がつかないケースが多いと考えられ、M&Aの知見を有する機関が適宜助言することも重要であろう。なお、実際にM&Aを行った企業の相談相手としては、公認会計士や金融機関が挙げられている(図表10)。・また、将来のリターンを大きく得るためには、一定のリスクテイクが必要だが、日本企業は諸外国と比較するとリスクを避ける傾向にあり、ROA(総資産利益率)も低水準であることが分かる(図表11)。国内でのM&Aの実施件数もまだ少なく、知見も限られた中で、経営者がM&Aの実施を決断することには相当に高いハードルがあると考えられる。・これらを踏まえ、M&Aを促進する方法の1つとして、共同投資が挙げられる。実際に、近年では政府系金融機関が買収元企業と共同で投資を実施することで、M&Aに関する知見の不足を補うとともに、M&Aに伴うリスクとリターンを分散することで、M&Aの成立を後押ししている。以降はその実例と今後の展望について検討したい。(図表9)M&Aマッチング時の課題40・政府系金融機関の共同投資の実例として、中堅・大企業によるM&Aとしては、買収先のネットワーク等を取り込み買収元事業の拡大に繋げた例や、スタートアップのイノベーションを加速させる成長支援等を実現している例がみられる(図表12)。・また、スタートアップが買収元となる例も存在する。AI技術開発のスタートアップがAI活用の見込まれる中堅・中小企業等へ投資をする例や、取引相手であったスタートアップ同士が互いの技術やサービスを活用し、それぞれの事業を拡大している例も存在する(図表13)。この場合においても、財務基盤が脆弱なスタートアップにとって、共同投資はM&Aを実現するにあたって有効な手段であろう。・共同投資の実施によって、M&Aに伴うリスクの分散およびノウハウの補完、財務負担の軽減など多様な効果が発揮されることが考えられる(図表14)。政府系金融機関だけでなく、民間の金融機関においても、こうした取り組みを実施し、幅広くM&Aの成立を促進することが必要であろう。企業のリスクテイクを支える体制面を整えることを通じて、国内の産業革新・創造の推進、そして日本企業の成長に資することを期待したい。(図表12)中堅・大企業によるM&Aの例10(%)0判断材料としての情報が不足していた効果がよく分からなかった仲介等の手数料が高かった相手先が見付からなかった自社の社内から反対があった相談相手がいなかったその他(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。LIXILCaiAI活用が見込まれる中堅・中小企業等政府系金融機関三菱重工業他企業政府系金融機関Fringe81Sansan・Fringe81それぞれのサービスの503020(n=390)(注1)複数回M&Aを実施している企業については、直近のM&Aについて回答(注2)複数回答AI系スタートアップが政府系金融機関や他企業とともに、ファンドを組成しAI活用が見込まれる中堅・中小企業等に投資。Sansanが政府系金融機関とともに、自社サービスと親和性の高い人事関連のSaaSを開発するFringe81に投資。(図表10)M&A交渉時の相談相手50(図表13)スタートアップによる ファンドを通じた投資AI系スタートアップ他企業政府系金融機関スタータップのAI技術の事業化を推進共同投資Sansan政府系金融機関連携を通じて、相互の価値向上を推進302010(%)0公認会計士・税理士金融機関弁護士専門仲介機関他社(仕入先・協力会社)コンサルティング会社他社(販売先・顧客)事業引継ぎ支援センター商工会議所・商工会その他公的支援機関その他相談相手はいない(n=468)4060ROA(総資産利益率)20%18%16%14%12%10%日本8%1235460 共同投資により以下のような効果を実現・リスク分散・M&Aノウハウの補完・財務負担の軽減<投資前>投資先企業<投資後>投資先企業トルコ英国シンガポールスウェーデンフランス投資事業会社金融機関金融サービス共創支援キャピタルゲイン事業シナジー事業会社金融機関キャピタルゲイン産業革新・産業創出南アフリカロシアタイインドマレーシアブラジル米国カナダスイスオランダオーストラリアメキシコ韓国台湾ベルギー中国ドイツイタリアスペイン香港フィンランド
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