ファイナンス 2023 Apr. 61合晃一・金沢大学人間社会研究域法学系准教授)、第7章 国立研究開発法人の自律性は向上したのか(原田久)〕は、様々な形で実証分析が行われている。森田朗・東京大学名誉教授は、2022年2月に出版した行政学のスタンダードな教科書『新版 現代の行政(第2版)』(第一法規)において、独立行政法人制度について「真にこの制度が業務の達成および効率化に資するか否かは、制度のあり方とともに、その運営のあり方、すなわちマネジメントのあり方に依存している」と指摘しており、その点に関わる部分だといえる。特に第6章は、2014年通則法改正が独立行政法人の効率性をもたらしたのかどうかを総資産利益率に着目したパネルデータ分析によって検証している。河合准教授は、検証結果として、総資産利益率からは効率性の向上は確認できなかったとし、業務運営の効率性の向上につながるような財務分析を独立行政法人が積極的に行う必要性を指摘する。また、第7章では、国立研究開発法人の自律性を、傾向スコア・マッチングに基づく計量分析によって検証している。この分析によれば、PDCAサイクルのうちC及びAの局面では国立研究開発法人という法人類型の選択が独立行政法人の主務大臣に対する自律性を高めた、という。【第3部 事例研究・国際比較・地方独法】〔第8章 国際協力機構をめぐる政治と行政(芦立秀明・京都産業大学法学部教授)、第9章 エージェンシーの目標設定のあり方―イギリスから日本への示唆(小田勇樹・日本大学法学部准教授)、第10章 地方独立行政法人―「独自化」と「同型化」の制度発展(伊藤正次・東京都立大学大学院法学政治学研究科教授)〕では、独立行政法人制度の相対化について第9章、第10章で考察がなされる。具体的に第9章では、イギリスにおける執行エージェンシーの業績評価を対象として、クラスター分析による業績目標の類型化を行っている。そして、イギリスの実例からすると、日本の独立行政法人は多数の数値目標を設定する必要のない業態が多いのではないかという。また、業態に応じて適した目標は異なり、研究開発機関や事業規模が小さい組織に対しては数多くの数値目標を課す必要が低いことを示唆されているという。2000年代初頭に日本を席巻したNPM(ニューパブリックマネジメント)では、まさに「業績指標」がその核心であったといってよいだろう。その文脈からすると、上記の考察はかなり衝撃的なものである。第10章は、地方独立行政法人について、国の独立行政法人制度等に関する「独自化」(制度設計に際して、他の制度を模倣・参照しつつも、その制度とは異なる固有の要素を取り入れること)と「同型化」(他の制度との制度的同型性を獲得する方向へ制度が変化すること)という視点から分析がなされる。地方独立行政法人の多くは公立大学と公立病院で、実質的にこの2つのための制度として活用されているという。公立病院の地方独立行政法人化は、今後も引き続き公立病院改革の優良な選択肢として活用される可能性があるという。なお、大阪市は、市立博物館に指定管理者制度を導入した2006年直後から博物館の法人化を目指していたが、公益財団法人日本博物館協会は大阪市の要望を支持していた。2013年10月の政令改正でそれが認められたという。長期的視点からの施設への戦略的な投資や専門人材の育成という観点からこのような改正が要望された点に注目したい。【補論 独立行政法人制度改革フォローアップ調査結果】(独立行政法人評価制度委員会事務局(総務省行政管理局))は、新たな独立行政法人制度に基づく目標策定・評価の取組みが1サイクル経過した状況を踏まえて調査が行われ、2022年2月に独立行政法人評価制度委員会が報告書を取りまとめたが、当該委員会がとくに注目する調査結果について記載した箇所を抜粋したものである。上述の第6章にも関連するが、財務データの活用が課題とされている点が特に目を引いた。評者は、2014年6月の独立行政法人通則法改正に至る2年間当時の行革事務局に出向し、独立行政法人改革について担当の総括参事官を務めた。本誌でも、「独立行政法人改革の経緯と 現状について」(2013年9月号)や「独立行政法人改革について ~3度目の国会提出で 成立した独立行政法人 通則法改正法案を中心に」(2014年9月号)でこの経緯を紹介したことがある。今回、法改正後の実態について関係者のご努力で詳細な分析が世に問われたことを大変嬉しく感じた。「もう1つの官僚制」である独立行政法人制度について関心のある向きに広くお勧めしたい。
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