ファイナンス 2023年4月号 No.689
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FINANCE LIBRARYファイナンスライブラリー評者渡部 晶本書の表紙カバーの裏扉には「独立行政法人とは、府省から独立して政策を実施する組織のこと。企業会計の発想も入れて作られたこの制度はどのように変化し、どれくらい成果をあげているのか? 目標や評価基準は適切なのか? 府省との関係はどうなっているのか? 行政学者と政府内で評価に携わってきたメンバーが、『もう1つの官僚制』である独立行政法人制度を徹底的に検証する! 行政に関わる人びとの必読の書」とある。本書は、2017年12月から継続的に十数回開催された、総務省行政管理局と、早稲田大学総合研究機構公共政策研究所の共催による官学研究会の成果である。編者の縣公一郎・早稲田大学政治経済学術院教授は「官学協力による研究成果の公表は、なかなか珍しいことではないだろうか」としているが、まことに貴重な成果といえよう。他の編者は、原田久・立教大学法学部教授、横田信孝・内閣官房内閣人事局人事政策統括官である(以下、役職は本書記載のものとする)。以下に紹介する各章のほか、合間に、行政管理局担当者による4つのコラム(独立行政法人の内部統制、中(長)期目標の変更、事業報告書の内容の充実について、独立行政法人評価制度委員会の活動について)が掲載され、実務的に重要な論点にも目配りしている。加えて、第1章から第10章では、冒頭に「行政実務者向けのポイント」という形で各章の解説が簡潔に記載される。【序章 独立行政法人の検証―一元化からの出発】(縣公一郎)は、本書の目的などを提示する。独立行政法人制度は1999年11月制定の独立行政法人通則法など関連法令に基づき2001年4月に成立し、2014年6月の同通則法の改正などで2015年4月から制度に大きな変容が行われた。「本書は、独立行政法人制度改正をめぐって、その前後の変化に着目し、制度に 60 ファイナンス 2023 Apr.縣 公一郎/原田 久/横田 信孝 編検証 独立行政法人 「もう一つの官僚制」を解剖する勁草書房 2022年7月 定価 本体4,000円+税特有なさまざまな側面に関する学術的分析のみならず、実務家による解説と調査結果をも包括することによって、現時点での独立行政法人の変容に関する総合的な検証を志向している」とする。【第Ⅰ部 独立行政法人制度の改革】〔第1章 独立行政法人制度の改正(辻寛起・総務省行政評価局政策評価課長)、第2章 独立行政法人制度観の変遷―改革と活用の狭間で(藤原真史・山梨大学大学院総合研究部生命環境学域社会科学系准教授)、第3章 独立行政法人の廃止と存続(原田久)〕では、独立行政法人制度の発足から上記の2014年通則法改正に結実した独立行政法人制度改革を包括的に概観することができる。特に第2章では、「新聞報道や国会議事録の分析を通して独立行政法人制度に対する社会や政治のまなざしの変化に迫」っている。2014年通則法改正以前の制度運用期と改正以後の新たな制度運用期とでは、「独立行政法人を取り巻く環境、いわば空気感が大きく変わった」というのはまさにそのとおりと実感する。なお、評者の手元には2005年9月に刊行された『静かな暴走 独立行政法人』(北沢栄著 日本評論社)がある。「行政改革の『切り札』のはずの独立行政法人が、実際には『官の聖域』と化しつつある。自主運営をいいことに暴走する独法の実態」との内容で、当時の世論の沸騰をしのぶものがある。【第Ⅱ部 府省―独立行政法人関係の実態―目標、評価、改善】〔第4章 独立行政法人の「目標」と「計画」の対比―自主性・自律性の一層の発揮に向けて(藤岡茉耶・総務省行政評価局政策評価専門官)、第5章 独立行政法人における評価基準の標準化―通則法改正後の府省別評価実態の分析(深谷健・津田塾大学総合政策学部教授)、第6章 独立行政法人の効率性―制度改革は財務パフォーマンスに変化をもたらしたのか(河

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