危機対応勘定金融危機対応会議※1我が国における公的資金注入および一時国有化スキーム ※1 法令の規定に基づき、内閣総理大臣が認めたときに金融危機対応会議の議を 経て各措置が行われる。 ※2 一般勘定の役割についての詳細はⅢ. 1.参照。(出所)預金保険機構*17ファイナンス 2023 Apr. 53図表3 一般勘定と危機対応勘定の関係金融危機対応措置過小資本(資産超過)債務超過等預金等全額保護預保法54条第2項54条の2第1項(保険金支払コスト内を負担)*17) https://www.dic.go.jp/yokinsha/page_000147.html*18) 持株会社で上場会社であった足利HDは資産超過であり、株価ゼロではなく、いくらか残余財産の配当があったとされています。一般勘定※2預保法102条第1号措置資本増強預金等全額保護預保法102条第2号措置一時国有化預保法102条第3号措置2.5 公的資金注入の意味合い*173.1 りそな銀行のスキーム3. 預金保険法102条第一号措置の事例:りそな銀行第一号措置による資本増強について公的資金注入という表現がしばしば用いられます。もっとも、この表現をみると、政府が銀行に税金を注入しているような印象をもつ読者もいるかもしれませんが、そうではない点に注意が必要です。詳細は次節で議論しますが、第一号措置による資本増強とは、預金保険機構が政府保証を受けて資金調達したうえで、優先株式等を購入することを意味しており、しばしばメディアなどで表現される「公的資金注入」はこの行為を意味しています。また、必要となる資金については、102条スキームを経理する勘定である危機対応勘定の残高および借入金で賄います。前述のとおり、万一損失が生じた場合には、事後的に金融業界から徴求することが原則とされている点にも留意してください。また、預金保険機構を通じて購入された優先株式等は(注入がなされた)当該銀行によって買い直されること等を通じて、将来返済されることが想定されています。この流れについては具体的な事例を用いて議論したほうがイメージしやすいと考えるため、次節でりそな銀行の事例を用いて確認します。なお、服部(2023b)ではアーマー等(2020)を参照しながら、ベイルアウトについて3つの定義を紹介しているため、ベイルアウトの定義に関心がある読者は服部(2023b)を参照してください。ここからりそな銀行を事例として取り上げることで、預金保険法102条スキームにおける第一号措置の理解を深めます。1990年代は、不良債権問題により、多くの邦銀が破綻の危機にさらされる中で、2003年に繰延税金資産が認められないことなどを理由に、りそな銀行の自己資本比率が国内基準行の健全性基準である4%を下回ることとなりました。これを受けて、りそな銀行に対して預金保険法102条第一号措置が発動されました。五味(2012)によれば、この時、日本振興銀行のようなペイオフではなく、102条スキームが採用された理由として、「銀行の規模が非常に大きく、関西地域を中心に中小企業向け融資の額が大きいことが、公的資金による資本増強の決め手となった」(p.107)と指摘しています。預金保険法102条第一号措置が適用されたことにより、株価がゼロにならなかったという意味で(足利銀行に比べ)株主責任が取られなかったという見方がある点も重要です(足利銀行の株価はゼロ*18になりましたが、足利銀行については次回の論文で取り上げます)。五味(2012)はその批判を理解しつつ、当時、りそな銀行は債務超過になかったため、「その条項で求められているステップを淡々と実行して危機を回避した」(p.109)、「外部から見ると、第一号措置、第三号措置のどちらを適用するのか金融庁は随分悩んでいるように見えたかもしれないが、悩んでいたのは債務超過であるかどうかの見極めだ」(p.123)としています。りそな銀行のケースにおいて、なぜ第三号措置ではなく、第一号措置が採られたかについては膨大な議論があり、当時の判断について否定的な議論もあります(例えば池尾(2009)などを参照してください)。しかし、本稿ではその点は他の書籍に譲り、公的資金注入のスキームや返済方法に焦点を当てます。
元のページ ../index.html#57