*11) アーマー等(2020)では例えば「米国では、ドッド・フランク法は、同法のもとで機能する政府機関がシステム上重要な銀行およびその他の金融機関をベイル・アウトするために財源を使うことを禁止する多数の条項を盛り込んでいる。(中略)危機において銀行が破綻することを許容してこなかった米国の歴史を考えると、これらの条項は、おそらく、まったくベイル・アウトを行わないというより、ベイル・アウトが遅くなる(そして、余計にコストがかかる可能性がある)、ということを意味するように思われる」(p.517-518)としています。*12) この節は特に断りがない限り、預金保険機構(2007)の5章を参照にしています。*13) 日本経済新聞(2011/4/15)「振興銀の破綻処理費用3500億円に 預金保険機構」*14) 預金保険機構(2007)では「『預金保険機構の財務は複雑』と受止められる最大の原因は、勘定が七つ存在するためと思われる」(p.257)としてお*15) 厳密にいえば、1996年に預金等の全額保護の特例措置が導入され、5年間の時限措置として特別勘定が作られるなど、危機対応勘定以前にも、一般*16) この表現は預金保険機構のディスクロージャー誌を用いています。り、その背景を説明しています。詳細は同書を参照してください。勘定以外の勘定が作られています。詳細は預金保険機構(2007)を参照してください。2.4 一般勘定と危機対応勘定*12 52 ファイナンス 2023 Apr.過)である場合、第一号措置が取られ、公的資金の注入により資本増強がなされます。一方、債務超過になっている場合、第二号措置あるいは第三号措置になりますが、この場合、まずは第二号措置による破綻処理及び資金援助が検討されます。しかし、国または地域の信用秩序に配慮する必要があると判断される場合、第三号措置という一時国有化の手段が取られます。すなわち、資本の状況やシステミック・リスクの重要度合いによって、「第一号措置」→「第二号措置」→「第三号措置」という順番で検討がすすみます。これまで102条スキームが用いられた事例は、第一号措置のりそな銀行と第三号措置の足利銀行のみです。気を付けていただきたい点は、ここでのシステミック・リスクは「システム上重要な銀行」を定義するうえで用いられるシステミック・リスクとは定義が異なる点です。服部(2023a)では「システム上重要な銀行」について詳細に説明しましたが、バーゼル規制における「システム上重要な銀行」は、あくまで国際統一基準行を対象としており、我が国における対象行は限定的です。102条スキームにおける「国または地域の信用秩序維持に極めて重大な支障の恐れ」をもたらす銀行は国際統一基準行だけでなく、国内基準行ももちろん含むため、対象となる金融機関がより多い点に注意してください(国際統一基準行および国内基準行の概念は、筆者が記載した「バーゼル規制入門」(服部, 2022)を参照してください)。なお、我が国では上述のように公的資金を注入する仕組みが残されていますが、例えば米国では、ドット・フラック法以降、公的資金注入のハードルが高くなっています。詳細はアーマー等(2020)を参照してください*11。預金保険機構における公的資金注入のスキームを確認します。そもそも預金保険機構には様々な勘定があり、区分経理がなされています(預金保険機構の貸借対照表等をみると、それぞれの勘定ごとに計上されていることがわかります)。例えば、通常の預金保険は、「一般勘定」と呼ばれる勘定で取引がなされています。一般勘定では、主に銀行から受け取る預金保険料が原資であり、ペイオフの際はこの勘定から支出されます。例えば、日本振興銀行への資金援助は、一般勘定から支出がなされています*13。預金保険機構において勘定が複数存在することが、預金保険機構の財務の理解を難しくしているわけですが(事実、預金保険機構(2007)もそのように指摘しています*14)、区分経理がされている理由は、各勘定を分けて経理することが法律により義務付けられているためです。したがって、各勘定を理解するには、その勘定を設立した背景を知る必要があるということになります。現在、預金保険機構には10の勘定があります。それぞれの詳細は預金保険機構のディスクロージャー誌等に譲りますが、預金保険法102条という観点からみた際、特に重要な勘定は「危機対応勘定」です。危機対応勘定は、預金保険法が改正され102条スキームが設立したタイミングで生まれました*15。図表3にあるとおり、第一号措置(資本増強)についてはその措置に要する資金の全て、第二号措置(預金等全額保護)及び第三号措置(一時国有化)についてはペイオフを超える資金を経理する勘定であり、りそな銀行への公的資金注入ではこの勘定が用いられました(一方、足利銀行については処理に要した資金がペイオフコストにおさまったため、一般勘定のみが用いられました。この点は今後の論文で説明します)。危機対応勘定では、主に事後的に預金取扱機関に納付が求められており、負担金と呼ばれています。もっとも、仮に負担金のみに依存すると、「金融機関の財務の状況を著しく悪化させ、我が国の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められる場合に限り」*16、預金保険機構は負担金の範囲を超えて政府から補助を受けることが可能です。
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