ファイナンス 2023年4月号 No.689
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----図表1 預金保険法に基づく金融機関等の破綻処理制度の概要(出所)中曽(2022)および吉良宣哉氏資料をベースに作成処理の枠組み保険金支払い方式 (狭義ペイオフ)預金等定額保護日本版資産負債承継方法 (資金援助方式)(ペイオフ・コスト超の資金援助)金融危機対応措置 (102条)秩序ある処理 (126条の二)(流動性供給・資本増強)預金取扱金融機関、(特定資金援助など)対象第一号措置 (資本増強)第二号措置 預金取扱金融機関第三号措置 (一時国有化)特定第一号措置 証券会社、保険会社など(金融持ち株会社を含む)特定第二号措置 ・第一種保険事故(預金などの払い戻しの停止)または第二種保険事故(営業免許の取り消し、破産手続き開始の決定または解散の決議)・第一種保険事故・救済金融機関などによる合併等に関する金融庁長官の「適格性」の認定またはあっせん・措置が講ぜられなければ、国または地域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められるときに、金融危機対応会議の議を経て、措置可能・わが国の金融市場その他の金融システムの著しい混乱が生ずるおそれがあると認められるときに、金融危機対応会議の議を経て、措置可能発動要件・破綻金融機関でも債務超過でもないとき・破綻金融機関または債務超過・債務超過かつ破綻金融機関・第二号措置によっては左記の支障を回避することができないとき・債務超過でないとき・債務超過または支払い停止(これらのおそれを含む)処理の例日本振興銀行 (2010年)りそな銀行 (2003年)足利銀行 (2003年)*3) 中曽(2021)では、「これらの措置は、いずれも1990年代の金融危機への実際の対応の中で開発されてきたものだ。例えば、公的資金注入については、1998年の旧『金融機能安定化緊急措置法』の下での金融危機管理審査委員会による資本注入や、翌1999年の『金融機能早期健全化法』に基づく大手邦銀に対する資本注入の事例がある」(p.133)としています。*4) 「当該金融機関の自己資本の充実のために行う機構による当該金融機関に対する株式等の引受け等又は当該金融機関を子会社とする銀行持株会社等が発行する株式の引受け」を指します。これは預金保険法126条の二の特定第一号措置において流動性供給など他のツールがある点と大きな違いですが、この点は次回の論文で説明します。*5) 預金保険機構のウェブサイトでは、「保険金支払コスト(「保険金支払コスト」参照)を超える資金援助を実施することができます。これにより、預金等の全額保護が可能となり、この場合、金融庁長官は、金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を行うこととなります」と説明しています。 50 ファイナンス 2023 Apr.立していませんでした。そのような中、1980年代のバブル崩壊とともに銀行が不良債権を抱えることとなり、1990年代に多くの金融機関が破綻しました。特に、1997年に山一証券や拓殖銀行などの大手金融機関が破綻するなどの金融危機がありました。それを受けて1998年に「金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律」(以下「旧安定化法」)、と「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」(以下「早期健全化法」)が成立し、暫定的な資金注入スキームが生まれました。預金保険機構は、これらの改革の中で、破綻金融機関の金融整理管財人や承継銀行(ブリッジバンク)の設立、資本増強など、新たなツールを有することになりました(金融整理管財人や承継銀行については服部(2023b)を参照してください)。もっとも、当時の法整備は時限的なものであり、恒久化されることとなったのは2000年の預金保険法の改正(預金保険法102条)後です(以下では「預金保険法102条スキーム」と記載します)。中曽(2022)が指摘するとおり、預金保険法102条スキームは、1990年代に発動されてきた金融危機対策をベースとして作られています*3。その意味で、時限立法の成立を含む経緯についての理解も重要といえますが、この経緯については既に膨大に文献があるため、本稿では紙面の関係上、他の文献に譲ります(池尾(2009)、柳澤(2021)や中曽(2022)などをご参照いただければ幸いです)。預金保険法102条によるスキームは、具体的には、第一号措置から第三号措置に分かれ、その概要は下記の通りです。第一号措置:資本増強(過小資本時)第二号措置:資金援助(破綻または債務超過時)第三号措置:一時国有化(破綻かつ債務超過時)図表2はこのスキームを説明する際によく用いられる図ですが、第一号措置から第三号措置のどれが発動されるかで、政府が活用できるツールも変わってきます。重要な特徴は、第一号措置が発動されるツールは、いわゆる公的資金注入を意味する「資本増強」*4のみという点です。その一方、第二号措置の場合、預金保険機構によって、保険金支払いコストを超える資金援助を行い、これにより預金等の全額保護が可能になる措置です*5。

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