2.2 預金保険法102条スキームの概要 ファイナンス 2023 Apr. 49*1) 本稿の作成にあたって、川名志郎氏、堀岡弘二氏、匿名の有識者など、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*12.預金保険法102条スキーム2.1 日本の破綻処理制度における「金融危機対応措置」1.はじめに我が国では戦後、銀行を破綻させないことを目的に、いわゆる護送船団方式が敷かれていましたが、1990年代に不良債権問題が深刻化する中で多くの金融機関が破綻しました。当時の政府は時限立法を設けることでこれに対処しましたが、この経験を踏まえ、2000年に預金保険法が改正され、現在の破綻処理制度(預金保険法102条スキーム)が確立しました。筆者が記載した「金融機関の破綻処理制度及び預金保険入門」(服部, 2023b)では預金保険の機能について説明した後、金融機関の破綻処理について議論を始めましたが、紙面の関係上、「預金等定額保護」に焦点を当てました。本稿では、1990年代の不良債権問題を経て確立された預金保険法102条、およびそれが実際に適用された事例を取り上げます。本稿の特徴は、特に破綻処理や公的資金注入に絞り、預金保険法102条が適用されたりそな銀行の事例を詳細に取り上げる点です。服部(2023b)では日本振興銀行の事例を紹介しましたが、破綻処理のイメージを掴むためには実態の破綻処理の事例を学ぶ必要があると考えます。もっとも筆者の知る限り、どのように公的資金が注入されたかや、その返済計画などの経緯について整理した文献は少ないといえます。そこで本稿では、破綻処理にかかる経緯をできるだけ具体的に取り上げます。なお、本稿では筆者が記載した服部(2023b)を前提に議論を進めるため、必要に応じて同論文をご参照ください。基礎的な知識の確認が必要な読者は「バーゼル規制入門」(服部, 2022)など筆者が執筆してきた一連の文献をご一読ください。筆者が記載してきた金融規制の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。服部(2023b)で強調したとおり、日本の破綻処理制度は3つの枠組みに分かれています。具体的には、(1)「預金等定額保護」、(2)「金融危機対応措置」、(3)「秩序ある処理」です(この関係は下記の図表1に示されています)。歴史的には、我が国では、1960年代に預金保険制度が生まれ、1980年中頃、資金援助方式が導入されることで、(1)「預金等定額保護」が確立しました(その詳細は服部(2023b)に譲ります)。その後、1990年代に不良債権問題が深刻化し、それに対処するため暫定的に生まれた法律が恒久化する形で、2000年に(2)「金融危機対応措置」が確立します。そして、2008年の金融危機を経て、「大きすぎて潰せない(Too big to fail, TBTF)」問題を防ぐための議論が進みます。TBTFの問題についてはすでに服部(2023a)で取り上げましたが、我が国では預金保険法の改正により、(3)「秩序ある処理」の制度が成立しました。冒頭で記載したとおり、そもそも我が国では、戦後、金融機関が破綻しない(破綻させない)ことを前提としていたため、1990年代まで破綻処理制度が確我が国における公的資金注入および一時国有化スキーム-金融危機対応措置(預金保険法102条スキーム)について-
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