46 ファイナンス 2023 Apr.コーヒーブレイク等を使って、債権国同士が個別に集まり、次のラウンドで共闘出来そうな点を確認したり、お互い説得を試みたりするなど、非公式なやり取りが交わされる。アルゼンチンの交渉も、この伝統的な交渉スタイルに沿って行われた。冒頭、アルゼンチン政府高官が経済状況等を説明し、債権国側からの質疑に応答。その後、アルゼンチン政府代表団は退出し、以後、議長を間に挟んで同国との交渉が続いた。債権国にとっては、債務国側が支払不能に陥った根本要因に対処(経済・財政改革を開始)するよりも前に遡って、ペナルティを免除することは適切ではない。この点、アルゼンチンは2022年3月にIMF支援プログラムを導入し、経済・財政改革に取り組み始めている。このタイミングを一つのターニングポイントと捉え、9%の「最終金利」を賦課するのはそこまでとする、との考えは合理的である。逆に言うと、それより後も9%を賦課し続けることは、改革に取り組み、パリクラブに返済する意思のあるアルゼンチンに不当にペナルティをかけ続けていると見ることもできる。アルゼンチンにとっては、同国大臣等が繰り返し公に発言している通り、この金利について、可能な限り過去へと遡及して賦課されている期間を短くしたい。交渉の結果、アルゼンチンが2022年5月末までは9%の「最終金利」を支払うことで両者は合意。これは債権国にとって満額回答を越える結果であり、考え得る9%の「最終金利」の取扱い個別の交渉に係る具体的やり取りについては、相手国や関係諸国との関係もあるため、明らかにすることはできないが、可能な範囲で交渉のポイントを整理すると、まず論点の一つは、「2014年合意」に基づき賦課されていた年率9%の「最終金利」の取扱いであった。これは、完済予定だった2019年5月末以降も残り続ける債務残高に対して発生している、ある種のペナルティである。ペナルティとはいえ、現下の金利情勢に鑑み、かなり高い金利水準である。債務再編を機に、パリクラブとアルゼンチンは、新たな金利に合意する必要があり、9%の「最終金利」がいつまで賦課されることとするか、いつから新たな金利へと切り替えるかが論点の一つであった。最長の期間(2019年5月末~2022年5月末)、9%の複利による金利収入を債権国は確保したことになる。この結果に至った背景として、多くの債権国が9%の「最終金利」を含む未払いの諸金利を、これまでの合意に基づき、一定の時期に元本に加える手続き(いわゆる「元加」)を取っていたことが影響している。一定の時期に遡及して金利を賦課しないと整理すれば、元加済みの分についての会計処理や事務負担上の問題が発生していたのである。多くの国の最終元加のタイミングが2022年5月末であったことから、IMF支援プログラム導入が決まった2022年3月ではなく、2022年5月末までこの金利を賦課するとの結論が得られた。残る主要な論点として、新たな金利をいくらに設定するか、毎年のパリクラブへの返済額をいくらとするかの2点がある。これらの論点は、先述の「comparabilityの原則」の観点も踏まえ、パリクラブが非パリクラブ国より不利な取扱いを受けることにならないよう設定する必要があった。金利について、パリクラブはその時々の金融市場の動向を踏まえた適切な市場金利を参照しつつ、非パリクラブ国が課す金利条件についてのIMFからの情報も踏まえて、適切な金利水準を目指した。交渉の結果、加重平均で4.5%となる金利を課すことで合意した。アルゼンチン側の打ち出しの提案を詳しく述べることは差し控えるが、彼らの希望が遥か低い金利水準であったこと、「2014年合意」の基本金利が3%であったこと、非パリクラブ国が設定している金利水準に照らし、パリクラブにとって考え得る最も高い金利を賦課することで合意することができた。その他の債務再編の論点9%の「最終金利」を賦課する期間が確定したことに伴い、アルゼンチンが抱える2022年5月末時点のパリクラブへの延滞債務残高も約20億ドルで確定した。アルゼンチンとの間では、この額を2022年12月から2028年9月までの6年間で完済することに合意した。債務再編交渉を再び必要とする事態に陥らないような、債権国・債務国双方にとっての持続可能な支払いスケジュールという点で、妥当な償還期間として評価されている。
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