アルゼンチンの債務再編と今後の債務問題の展望 ファイナンス 2023 Apr. 45と、アルゼンチン政府にとって即座の交渉は困難であり、パリクラブは7月初旬の交渉をキャンセルし、改めて8月下旬の交渉を目指し調整を始めた。しかし、同年7月28日、フェルナンデス大統領が、バタキス経済大臣に替えて、マサ下院議長を後任にあてる閣僚人事を発表したため、パリクラブは交渉日を更に後ろに倒すこととした。度重なる閣僚交代があったものの、アルゼンチンは必要な改革努力を続け、IMFから求められている政策を期日までに実施できたか否かを確認する2回目のレビューも2022年10月7日に、無事、理事会を通過。債務国側の継続的なコミットメントを確認したパリクラブは、3度目の正直で、10月27・28日にパリで交渉することとした。いざ、債務再編交渉へ交渉が行われる仏財務省の国際会議場には、16か国のパリクラブの債権国が参集。会場に集まった各国政府代表団はそれぞれ2~4名程度。かつては、パリクラブの交渉を傍聴する手立ては物理的に参加する以外に手がなかったが、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、国際会議のバーチャルでの参加・傍聴が当たり前となり、今般の交渉も会場に足を運ぶことができない代表団のために、仏財務省がビデオ会議システムによるオンライン参加ができるよう取り計らった。また、アルゼンチンに債権を持たないその他のパリクラブメンバーもオブザーバーとしてオンラインで傍聴した。アルゼンチンとの交渉は、10月27日のパリ時間の正午にスタート(東京からオンラインで傍聴していた関係者にとっては、日本時間の同日19時スタート)。債務再編交渉は多くの場合、長丁場となる。徹夜しても終わらず、翌日にもつれ込むこともざら。仏財務省のパリクラブ事務局は、正午の交渉開始に先駆け、各国代表団のために、仏財務省内にある職員用カフェテリアでのランチのチケットを希望者に配布してくれた。お陰で複数の他国代表団とランチのテーブルを囲んで、交渉前の情報交換や簡単な打ち合わせの機会を持つことができた。何より、仏財務省職員が普段利用するカフェテリアを利用させてもらい、貴重な経験となった。仏財務省の国際会議場には、ロの字型に配置されたテーブルに、各国代表団がアルファベット順に着席。日本の左隣りはイタリア、右隣はオランダだった。債務再編交渉の進め方パリクラブの債務再編交渉では、債務国の政府代表団とパリクラブの債権国政府代表団が、終始、直接交渉する訳ではない。債務国の政府代表団が会場に現れるのは会議の冒頭と、債務再編に合意し、合意議事録(合意文書)に署名する時の2回だけである。その間の債務国側とのやり取りは、パリクラブ議長たるフランスを仲介して行われる。会議の冒頭、債務国は経済状況や諸政策を説明し、債務再編の条件案を提示する。その後、債務国は退席し、債権国メンバーだけで、債務国にぶつける対案を交渉する。議長は債権国の対案を、別室に控えている債務国に提示し、債務国は必要に応じて本国と連絡を取り合い、債務国としての再提案を提示。議長はこれを持ち帰り、再び債権国だけで対案を議論する。こうした往復が繰り返される。両者が合意に至れば、パリクラブ事務局が合意した点を合意文書にまとめ、債務国も会議室に戻り、全員が一堂に会して合意文書に署名し、交渉は晴れて妥結である。パリクラブの債権国メンバーの意思決定は、コンセンサスで決まる(「全会一致(consensus)」の原則)。一か国でも寝転がれば、多数決で議事を進めることはできない。交渉を建設的に纏めるために、互いが妥協したり、相手を説得したりして、コンセンサス形成に向け、互いに努力することが求められる。交渉である以上、債務国もパリクラブもお互い高いタマをぶつけ合うことから始まる。回収資金の最大化は債権国メンバーに共通する目的だ。しかし、各債権国メンバーと債務国との間の政治的、経済的、歴史的な結びつきや、ビジネス面での懸案事項、交渉が妥結するポイントについての相場観の違いなどから、どのような対案を債務国にぶつけるかを巡って、債権国メンバー間の意見が割れることも多い。債務国が呑めない厳しい条件に固執する国もいれば、交渉の早い段階で緩いタマを債務国に提示して、早期の交渉妥結を目指そうと考える国もいる。フロアがオープンになると、各債権国は、自身のネームプレートを立てて、議長に発言を求める。各国の意見表明が一巡し、議長がメンバーの意見を取り纏め、各国が必要に応じて、2回目、3回目の発言を求め、対案をブラッシュアップさせていく。議場での調整で収拾がつかなければ、
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