ファイナンス 2023年4月号 No.689
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*4) IMF Staff Report for 2022 Article IV Consultation and request for an Extended Arrangement under the Extended Fund-Facility-Press Release; Staff Report; and Staff Supplements(March 25, 2022), Box 4. “FX Debt Restructuring Operation During 2020-21”(https://www.imf.org/en/Publications/CR/Issues/2022/03/25/Argentina-Staff-Report-for-2022-Article-IV-Consultation-and-request-for-an-Extended-515742) 44 ファイナンス 2023 Apr.2018年以降の状況その後、アルゼンチンの経済は再び低迷。2018年には急速な通貨下落と高インフレに見舞われた。対外債務の返済に窮したアルゼンチンはIMFから融資を受け、経済の立て直しを図ろうとした。しかし、経済の低迷は続き、2020年5月には国債の利払いを履行できず、史上9回目のデフォルトを起こした。パリクラブとの関係では、アルゼンチンは当初予定していた2019年5月末までの完済が行えず、残債に年率9%の「最終金利」が上乗せされ、延滞債務が膨らみ始めた。折しも、世界中に広がった新型コロナ感染症ウイルスはアルゼンチン経済にも暗い影を落とし、同国政府の財政余力を圧迫。パリクラブとの10回目の債務再編交渉は不可避の情勢となった。パリクラブ交渉に向けた地ならし  ̶IMF支援プログラムの導入債務国が予定通りに返済できなくなった場合、パリクラブは、その国と新たな返済スケジュールに合意し、着実な資金回収を目指す必要がある。しかし、債務国自身が返済不能に陥った根本要因に対処する努力を行わなければ、安易に債務再編交渉に応じる訳にもいかない。そこでパリクラブが重視するのが、IMF支援プログラムの導入である。IMF支援プログラムは、国際収支上の問題を抱えた国にIMFが融資を行い、その国の経済の安定と成長の回復に必要な政策の実施を後押しする政策支援パッケージである。決められたスケジュールに沿って、時として多くの痛みを伴う経済・財政政策を断行していくことが、IMFから予定通りに融資を受け続ける条件であり、IMF conditionalityと呼ばれる。パリクラブは、債務国と債務再編交渉をする際、原則として、その国がIMF支援プログラムを導入することを求める(「conditionalityの原則」)。翻って、アルゼンチンの場合は、2018年からIMF支援プログラムの下で経済・財政改革を行ってはいたが、IMFへの返済を、より持続可能なものとするために、同国政府は新たな支援プログラムによる借換えを目指した。2022年3月、約440億ドルの新たなIMF支援プログラムがアルゼンチンに導入され、同国が国際収支と財政状況を改善し、債務持続可能性の回復と安定的な経済成長の達成を目指していく環境が整った。アルゼンチンの場合は、パリクラブとの交渉に先立つ2020年9月、主要な民間の債権団との間で約655億ドルに上る外貨建て国債の債務再編に合意している*4。この民間債権者との債務再編は、発行済みの既存債券と、償還期間がより長期かつ低金利の新債券に交換する方法等により実施。対象債券の大半に「集団行動条項(CACs)」が付いており、債権者の一定の賛成を得られれば、仮に一部の債権者が反対しても債務再編を進めることが可能であったということもあり、99%の国債の債務再編が片付き、民間債権者との間のcomparabilityはクリアした。非パリクラブの公的二国間債権者については後述する。他の債権者との債務再編パリクラブが債務再編に応じるにあたり、パリクラブ以外の債権者(非パリクラブの公的二国間債権者や民間債権者)が債務再編をしなかったり、パリクラブよりも有利な条件で債務再編に合意したりすることは、パリクラブとして認められない。パリクラブは、債務国に対して、非パリクラブ債権者ともパリクラブと同等(comparable)の条件で債務再編を行うよう要求する(「comparability原則」)。仮に、債務国がこの約束を履行しなければ、パリクラブが合意を停止・破棄することも可能な条項を合意文書に挿入することもある。度重なるアルゼンチンの大臣交代劇いよいよ、パリクラブとアルゼンチンは、パリで交渉する方向で調整に入った。設定された交渉のタイミングは2022年7月初旬。ところが、同年7月2日、アルゼンチン政府内で、IMF融資の借換えやパリクラブとの債務再編に向けた水面下の調整を主導してきたグスマン経済大臣が、大臣を辞任する旨表明、同年7月4日には、グスマン経済大臣の後任にバタキス前内務副大臣が就任した。突然の担当大臣交替を踏まえる

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