ファイナンス 2023年4月号 No.689
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パリクラブの会議が行われている仏財務省敷地内にある国際会議場アルゼンチンの債務再編と今後の債務問題の展望 ファイナンス 2023 Apr. 43*3) パリクラブメンバーは、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、オランダ、ノルウェー、ロシア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ(アルファベット順で記載)の22か国。クラブが、「クラブ」と称してグループで活動する背景には、各債権国がバラバラに対応するよりも、債権国同士、一致団結して対応した方が、債務国に対するレバレッジを最大限に高められ、交渉を有利に進められるからである。したがって、パリクラブメンバーは、抜け駆け的に債務国と二国間交渉をしてはいけない、とのルールに縛られることにもなる。これはパリクラブの6つの原則の一つ、「債権者連帯(solidarity)の原則」である(残り5つの原則は後述する)。パリクラブは、債務再編交渉の時だけ集まるのではなく、原則、毎月、債務状況が芳しくない低・中所得国の経済状況について、国際通貨基金(IMF)及び世界銀行によるアップデートを受け、メンバー間で情報交換を行い、債務再編に関するメソドロジーや様々な取組み等について意見交換するなど、定期的かつ緊密にグループとしての活動を行っている。各メンバーは、必要に応じて、特定の債務国に関する情報や債権データを透明性高く共有し、その国の債務状況の正確な把握に努めている(「情報共有(information sharing)の原則」)。パリクラブの正規メンバーは現在22カ国*3いる。アルゼンチンとパリクラブの関係アルゼンチンとパリクラブの歴史は古い。なんといっても、パリクラブが1956年に初めて手掛けた債務再編の第一号はアルゼンチンである。パリクラブが1956年にアルゼンチンの返済を繰り延べる取極めを行った後、アルゼンチンは、1962年、1965年、1985年、1987年、1989年、1991年、1992年、2014年と、計9回に渡ってパリクラブと債務再編交渉を繰り返している。1992年と2014年で間が空いているが、この間の2001年に、アルゼンチンは対外債務のデフォルト(債務不履行)を宣言し、これに伴い、国際金融市場へのアクセスを失っている。2014年の債務再編は、アルゼンチンが国際的な信用を回復し、国際金融市場に復帰するべく、パリクラブと延滞債務問題を解消することを希望したことから実現したものである。現在、パリクラブの中で、アルゼンチンに債権を有するのは、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、日本、オランダ、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国(アルファベット順で記載)の16か国である。なお、この中で、最大債権者はドイツで、これに日本、スペインが続く。2014年のアルゼンチンとの合意2014年5月、パリクラブはアルゼンチンと交渉し、延滞している全ての債務約97億ドルを2014年から2019年5月末までの5年間で完済する新たな返済スケジュールに合意した(以下、「2014年合意」)。合意文書では、5年間でちょうど完済となる毎年の「目標返済額」と、毎年最低でも支払わなければならない「最低返済額」を設定。各返済期日における債務残高に賦課する「基本金利」を年率3%、各返済期日時点で「目標返済額」よりも実際の支払額が少ない場合には、その差額に年率4.5%の「補償金利」を賦課し、2019年5月末までの5年間で完済しない場合は、未払いの元本、未払いの「基本金利」、未払いの「補償金利」の総額に、年率9%の「最終金利」を賦課し、2020年5月末もしくは2021年5月末にこれらを支払うこととした。「2014年合意」に基づいて、アルゼンチンはパリクラブ債権国に返済を開始した。

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